東京タワーの恋人達

 夜の東京駅、色とりどりにライトアップされた新宿のドコモビル、すっかり東京の名所として定番になった東京スカイツリー、そして芝公園を見下ろす東京タワー。東京に来たら一度はどこかで目にするかもしれない場所ばかりだ。僕は、夜の東京タワーがお気に入りだ。特にタワー全体がオレンジ色に照らされているのがいい。

 東京タワーが好きと言っておきながら、実は一度も上まで昇ったことがない。高所恐怖症というわけではない。昇りたいのだが、ひとりで行くのは寂しいし、妻は高い所が苦手なので気乗りしてくれない。未だに下から見上げるだけだ。特に不満なわけではない。空に向かって尻すぼみに細くなるシルエットと、鉄筋の少し時間が経過したようなあせた表面の色が、照明に照らされてオレンジ色に染まっている姿が好みだ。

 元々オレンジ色が好きだった。初めて買った自分のバイクはオレンジのボディカラーがアクセントになっていたし、着る服の色に迷った時は大抵オレンジを選ぶ。何となくオレンジ色を見ていると前向きになるような、エネルギーをもらえるような気がするから。

 タワーの近くには芝公園がある。公園の中心に広い芝生が敷かれている。この間行った時には、薄い桃色の花をつけた樹が一本植っていたが、花の種類までは分からなかった。これから春に向けて公園内の色々な場所で花が咲き始めるだろう。夏になると、芝生の上に寝転がって日光浴を楽しむ人達も見かける。汗だくになりながら、芝生を囲むようにして設置されているアスファルトの上を走る人もいる。日陰になったベンチには、暑さから身を隠すようにタオルで顔を拭きながらペットボトルの飲み物を傾けて涼んでいる人もいる。

 秋になると、木々の葉が色を変え始める。程なくして、葉が地面に落ち始め、その上を歩く度に乾いた音を立てる。冬を除いて、天気のいい日には弁当やどこかから買って来た昼食を持って公園で休憩することも時々ある。サラリーマンやOL達が束の間の団欒を過ごす風景は、昔まだ地元にいた頃にテレビで見た光景と重なる。カフェでもなく、お店でもなく公園に集まって日溜りの中、忙しい東京の暮らしから少しだけ距離を空けて時間を過ごす。ぼーっと考え事をするのもいい。好きな音楽を聴きながら昼寝をするのもいい。

 赤羽橋で地下鉄を降りる。階段を昇って高架下の出口へ向かう。地上に出ると正面にはすぐ東京タワーが見える。交差点を渡ってガソリンスタンドを横目に少しずつ近づいていく。僕らより先に着いていたんだろう。恋人達は微笑みを浮かべて歩いていく。ふたりで手を繋ぎながら、夜の東京タワーを見つめていた。

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