味がしなくなるまで

 家族の人数が多かった僕の実家では、ホットプレートを使う料理が夕飯に出てくることが多かった。餃子にしようとなったら、スーパーで買ってきた皮や具材から種を作る手伝いを皆でやった。テーブルの上に新聞紙をいくつも広げて、餃子の皮を1枚ずつ並べて置いていく。金属製のボウルの中には種が用意されていて、スプーンで個々の皮の中心に置いていく。量が多いと包めないし、少ないとワンタンみたいになる。種を置き終わったら、茶碗の中に入っている水に指の先を少し浸けて、種の乗った皮の外側を丸くなぞるように水を付ける。多いと皮が破れやすくなるし、少ないと皮同士がうまく貼り付かない。何度も失敗を繰り返しながら、年齢と共に段取り良く手早く包めるようになっていった。

 もう一品、ホットプレートで頻繁に作っていた料理と言えばお好み焼きだ。実家では卵を黄身と白身に分けて、白身はメレンゲにしていた。そして生地を焼く直前にメレンゲを投入して、泡を潰しすぎないように優しく混ぜてから焼いていた。この方法が一般的なのかどうかは分からないけど、生地がふわふわで柔らかくなる。具材を切って生地と混ぜ合わせるだけなので、子どもでも調理しやすい。複雑な味付けが不要だし、野菜もタンパク質も同時に摂取できるから栄養満点だ。難点というほどではないが、片面を焼いて火の通った後にひっくり返すのが最初は難しかった。今でこそヘラを使うことは何ともないが、生地の生焼けの部分が飛び散ったり、千切れてしまうこともあった。

 お好み焼きは今でも時々自分で作っている。メレンゲは泡立て器がないのでやっていないが、それ以外は実家で作っていた方法を思い出しながら調理している。実家にいる時は入れる具材を自分だけの好みにすることは難しかったが、今はかなり自由に選べる。もちろん際限なく何でもかんでもというわけにはいかないが、好物の魚介類を中心にするくらいなら問題ない。豚バラ肉を片面に敷いた後に生地を裏返す方法も、実家ではやっていなかったがお店でお好み焼きを食べるようになってから取り入れ始めた。片面が柔らかい生地で、反対側には油を落としてかりかりになったバラ肉が貼り付いて、食感の違いが楽しめる。

 キャベツも大量に使う。お好み焼き以外ではほとんどキャベツを食べることはない。キャベツはどれくらいの大きさに刻むのが正解だろう。レシピを調べると微塵切りと書いてある。実家で食べていたお好み焼きに入っていたキャベツはそんなに細かく切られていた記憶はない。そう言えば年末に帰省した時に食べたそれに入っていたキャベツも微塵切りではなかった。とにかく食べやすい大きさで火が通れば問題なさそうだ。切り終わってプラスチック製のざるに山盛りになったキャベツを少しずつ生地に入れて混ぜ合わせていく。半分くらい入れるとボールから生地と一緒にキャベツが溢れ出そうになっている。お好み焼き用の粉は全部開けてしまっているから、キャベツを次の日に残すつもりはなかった。約4分の3くらいまで生地に入れ終わったら、一旦それ以上追加するのは止めにした。

 フライパン2つをガスコンロの上にそれぞれ置いて火を付ける。少量のごま油を垂らして馴染ませる。充分温まったら中火にして生地を流し入れる。厚みが均一になるように調整したら豚バラ肉を数枚生地の上に敷く。生地に火が通って色が変わるまでそのまま焼いて待つ。生地の外側に火が通ったら裏返して反対側も焼いていく。火が通ったら再度裏返して、生地の真ん中に軽く穴を開けて生焼けになっていなければ出来上がりだ。火が通り切っていなければ何度かひっくり返しながら焦げないように気を付けて火を通す。直径約10cmくらいなら10枚以上は焼けるはずだ。ちなみにお好み焼きの粉は600g入りの物を使っている。

 余談ではあるが、実家のお好み焼きにはイカが入っていた。僕はイカが好きだったので、自分の皿に置かれたお好み焼きを解して食べながら、イカを生地の中に発見する度に端っこに避けておいた。そして最後にいくつか集められたイカだけを味わう。味が無くなるまで口の中で転がしていたこともある。そのまま風呂に入ってシャワーを浴びた時に、開いた口からそれがこぼれ落ちたこともあった。もちろんそれを拾って食べることはなかった。なぜそんなことをしていたのかは未だに謎のままだ。

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