伊勢神宮、光の藻

 宮崎駿監督の「もののけ姫」という映画に、こだまという精霊のような生きものが登場する。半透明の小さな身体で、三つの穴が空いた顔を小刻みに揺らしている。三重県にある伊勢神宮。正月の参拝で賑わうのみならず観光地としても有名な場所だが、以前僕が神宮の参道脇の立派な木々を写真に収めたことがあった。その写真をよく見ると、所々に淡い白で丸い形の滲みのようなものがいくつも写っているのを見つけた。残念ながらその写真が今どこにあるのかわからないので、本当に写っていたのかどうかを証明することはできないのだが、確かにそこに光の藻のようなものが写っていた。

 東京に来てからは伊勢神宮に出かける機会は減ってしまった。まだ家族みんなが実家にいた頃は、正月に揃ってよく参拝に出かけたものだ。日本の総理大臣が参拝に来るタイミングと合致したこともあり、ちょうどその時は小渕総理を間近で見ることができた。父が大きな声で「小渕さぁ〜ん!」と叫んでいたのを覚えている。

 伊勢神宮のそばには、おかげ横丁という昔の街並みを再現した観光地があり、参拝前後に訪れた人々で賑わっている。あんこをたっぷり纏った赤福や、独特のやわらかい食感の伊勢うどんが名物だ。そばには五十鈴川という緩やかな流れの川が流れていて、春には川沿いの桜の木が美しい花を咲かせている。中でも特に僕が気に入っているのが伊勢角屋麦酒という醸造所から出ているクラフトビールだ。いつも車で出かけるのでおかげ横丁で販売している生ビールを飲んだことはないが、東京に来てからも販売している店を探しては定期的に楽しんでいる。

 もう少しだけそのビールの話をすると、今まで飲んで苦手に感じていた苦味が気にならなくなり、それに伴って感じることのなかったビールの旨味を伊勢角屋のビールで感じられるようになったのだ。爽やかな香りと果実ジュースのような旨味が心地良い。ビールを美味しいと思って飲めたのは初めてのことだった。伊勢角屋以外のクラフトビールも時々飲み比べるようになったが、自分の中では未だに一番美味いビールは伊勢角屋だ。

 話が脱線してしまった。今でも伊勢神宮には年に1回弱は出かけている。出かける度に写真を撮ってみるが、先述したこだまのような滲みが写ることはなくなった。精霊達に見放されてしまったのか(笑)。それとも、そもそも精霊が写っていたわけではないのか、今となっては僕にはもうわからない。東京でも神社を見つければ立ち寄って参拝することはあるが、やはり伊勢神宮の参道に漂う空気感が僕はとても好きだ。そしてあの写真に写った光の藻は、僕の明るい未来を暗示していたんだと今でも信じている。

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