サンタへの手紙

 毎朝家に届いていた新聞紙の間に入っていた色とりどりのチラシ。そのほとんどは僕にとって不必要な物だったけど、裏面が白くなっている物は例外だった。裏が白いチラシを集めてメモ用紙を作り、固定電話の横に積んで置いたり、落書き用紙代わりにして使っていた。そして12月24日の夜に、僕はチラシの裏面にサンタクロース宛ての手紙を書いた。サンタクロースに向けて書いたのだから、きっとその内容は自分が欲しいプレゼントについてだったんだろう。細かな内容までは覚えていない。僕が覚えているのは次の日の朝にその手紙の返事が来ていたということだ。

 父方の祖父母がまだ実家で同居していた頃、クリスマスの時期になると僕が持っている衣装を使ってサンタクロースの格好をしていた。ばあちゃんが特に喜んでくれていたと記憶している。帽子と白い髭はさすがに普段使いすることはないので、雑貨屋で買って用意した。プレゼントを白い袋に入れて1人ずつ順番に渡していく。喋り方を真似してみたり、トナカイの角を被ってみたりした。派手なクリスマスツリーはその頃もう家に飾ることはなかったけど、それはとても華やかで幸せな時間だった。

 今日の朝起きるとLINEの通知が画面に複数表示されていた。他県で生活する家族から1日早いプレゼント開封の様子が、写真と動画で送られて来ていた。クリスマスだからといって、誰もが当日に自宅でお祝いができるわけではない。大事なことはいつかでなくて時間を共有することだと思い知らされる。姪っ子達はもう3歳になるが、自分の息子はまだ生後半年だ。何か欲しい物があるかと聞いても具体的な答えは返って来ない。でもローソクに火を灯して電気を消したら、何か素晴らしいことが起こるという雰囲気くらいは感じ取ってくれるかもしれない。

 サンタクロースは本当にいるのか。僕は実際にその姿を見たことはない。手紙の返事が来たからと言って、それだけで彼が実在すると断定することはできない。でもサンタクロースから返事が来たと思って感動した当時の僕の心境には嘘偽りが一切なかった。その気持ちは紛れもなく本物だった。だからあの手紙の返事を書いたのがサンタクロース本人ではなかったとしても、それは大した問題ではない。サンタクロースからの返事だと思えば、それはそう思った人の真実になり得る。それは他の人と共通の認識ではないかもしれないが、だからと言って誰かを傷付けているわけではない。むしろ素直にそう思える心を大切に抱えて生きて行きたいと思う。

 仮に誰かが僕に何でも好きな物をクリスマスプレゼントとして贈るよと言って来ても、その申し出は丁寧に断ろうと思っている。なぜかって?今年は息子が元気に生まれて来てくれたこと、そして今親子3人で幸せを噛み締められていることが何よりの贈り物だと言い切れるから。

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