舞浜の夜
夜が開けるにはまだまだ時間が掛かりそうな闇の中、僕は父が運転しているワゴン車の中で目を覚ました。外を見ると、まばらではあるが他にも車が止まっているのが見えた。車内の明かりはほとんど付いていないようだ。それでも何となくそこに誰かがいるような気がしていて、僕らと同じように車中泊で時間を潰しているのかもしれない。その駐車場は広かった。夜が開けた後に、自分達がゲートをくぐるであろうその場所の広さと比例するかのような大きさだった。用を足したくなって車を降りる。遠くに見える小さな照明がその目印だった。楽しみなことがあると時間が経つのがとても遅く感じるのは今も変わらない。
初めてディズニーランドに僕が出かけた時は家族と一緒だった。眠っている間に車は実家を出発して、気が付いた時には僕達は駐車場で眠っていた。確か直前までどこに行くのかを知らされていなかったと思う。東京と名前の付く場所は当時の僕からすれば遥か遠くの場所だったから、まさか本当にディズニーランドに向かっているとは知らずに目を閉じていた。それまで起きていたことのない朝早い時間に起きて、冷たい外の空気を除けるように上着を着込んで歩いた。空が少しずつ白み始めてからも、まだまだ開園までは長く感じた。
最初に目を覚ました時よりも周りの車の台数が明らかに増えていた。それはそうだろう。日本全国色々な場所からそこに向かって来るのだ。僕らよりも近い所から来園する人達もたくさんいるはずだから。人の話し声も聞こえ出す。そして駐車場の端の方からはゲートに向かって歩いている人々の姿も見えた。その時点で既にディズニーのキャラクター達の被り物などで着飾っている人もいた。開園前なのに一体どこでそれらのアイテムを手に入れているんだろうと小学生の僕は不思議に思っていたが、何度も訪れているのならグッズを既に持っている可能性は充分考えらるし、何も特別なことではなかった。
太陽の光が眩しい。必要な荷物を手に持ったらゲートに向かって歩き出す。どこからともなく父親がチケットを取り出して僕らに渡してくれた。ガラガラという金属の棒が動く音がして、開園直後の入場の順番を待っていた。自分達の番が来て少し緊張していた。テレビでしか見たことのなかった場所が目の前に広がっている。それはどこにも逃げも隠れもしない正真正銘のディズニーランドだった。朝早くに到着して、夜暗くなるまで遊び続けた。派手な電飾のパレードが眩しい。パレードの両脇を埋め尽くす人達は、皆自分よりも背の高い大人達だった。
僕は今、立っている状態で誰かに視界を妨げられることはほとんど無くなった。自分自身でチケットを買ってディズニーランドへ行くこともできる。そして今度は自分が子どもを車に乗せて連れていく番になった。今年は行けそうにない。まだ息子は小さいし、コロナのこともあるから不安は大きい。でも必ずそんなこともあったねと言える時が来ると信じているから、その時はまた夢の国へ向かおう。