3週間と少し
冷蔵庫を開ける。半透明のプラスチックのケースの中には、中華料理の調味料が隙間なく詰まっている。そしてその中でも異彩を放つのが、白い蓋付きの小ぶりで透明なガラス瓶に入ったカレー粉だ。いつも使っているカレールーとは全くの別物。ルーよりもスパイスの香りが遥かに強い。当然と言えば当然だ。カレーで使われるスパイスを粉末にしてあるのだから。普段の料理では全く使う機会がなく、どんな調味料なのかも想像が付かないような名前がラベルを埋め尽くしている。うどんのスープに小さじで4杯くらい入れてカレーうどんにして食べている。
仮住まいから元の住居に戻ってからは、まだ以前のようにルーを使ったカレーを作っていない。生活の場所が一時的に変わっていた間に、自分の手料理にも新たなレパートリーが加わった。手の込んだ料理というわけではなく、今まで口にした物の見た目や味を思い出しながら試している。料理を楽しいと思えたのは、妻と一緒に同棲し始めてからだ。使っていた冷蔵庫が極端に結露し始めて、譲り受けた物だったしかなり使い込まれた物だったから、新しく買い換えることにした。冷蔵庫が大きくなるとスペースを取るが、それ以上のメリットがある。
買い物に出かけて料理で使いたい食材を複数見つけた時や、安売りしている消耗品を見つけた時だ。一度にたくさんの量や種類をお得な値段で購入できる。それができるのは、家に持ち帰った時に保管する場所に余裕があるからこそだ。冷蔵庫の収納力が上がればそれだけ食材を買い溜めできる。僕はいつも先に献立を考えてから買い物に出かけているから、家にある余り物で何かを作ることはあまりない。だから結果的に毎回安い品を買い込んでいるわけではない。それよりも保管スペースが許す範囲で、自分でも作れそうな料理に必要な食材を毎回ほぼ妥協せず揃えるようにしている。
買い替えた冷蔵庫は確かに以前の物よりも大きくなったが、食べ盛りの子どもがいるような家庭用の物と比べるとまだまだ小さい。息子が僕らと同じ物を食べるようになった時には、今の冷蔵庫では足りなくなるだろう。家電量販店に行けばガラス製の扉が備えられていたり、操作パネルが付いている物、そして引き出しがいくつもあるタイプや、何人分まで想定して作られているんだろうかと思うような物まで並んでいる。今でも素人にしては結構手の込んだ料理をしているつもりだが、いずれもっと大きな冷蔵庫を用意して、家族にたくさん美味しいと言ってもらえるような料理を作り続けたいと思う。
外の空気は冷たい。そしてただ冷たいだけではない。気のせいだろうか、道を行く人々の足取りは速く、もう年末かのように閑散としている雰囲気だ。あと3週間と少しで本当に2020年が終わってしまうのだ。でも何も悲観することはない。来年は全く新しい1年でもあり、今この瞬間のずっと前から、今を通過して続いていくものだから。今日はカレーうどんで温まろう。