永遠を一瞬に

 今週で仮住まいの生活も終わりだ。全ての作業が完了したと連絡があった。埃ひとつ残さないようにと清掃業者には伝えてありますと、担当者の声が電話口で弾んでいた。そこまで言うのならぜひ結果に期待したい。僕は散らかってる部屋が好きではないが、だからといって四六時中どこかしらを掃除し続けているわけでもない。どちらかと言えば綺麗好きな人間だと思っているが、掃除をするタイミングは不定期だ。唯一定期的に行っていることと言えば、加湿空気清浄機のフィルターの埃を掃除機で吸い取るくらいだろう。

 生活の拠点を一時的に移さなければならないと知らされてから、あれこれと自分達で手配した。引越し業者に電話をしたのも初めてだったし、彼らが荷物を一時的に預かってくれるサービスを行っているということも初めて知った。そして引越し以外の日常生活に関わる細々としたサービスを請け負っていることも驚きだった。そして荷物の運搬ひとつでも、依頼する時期によって結構値段の差があることが知れる良い機会になった。実際に彼らが荷物を動かす様子を間近で見ていたが、無駄がなく次々と荷物が移動されていく。そしてその様子に感心している間に作業は終わってしまっていた。

 諸費用を精算してもらうことにはなっているが、正直入居人である僕らが建て替えて後に精算するやり方には納得していない。自分達に落ち度が少しでもあれば、仕方がないかと少し思えたかもしれない。ただ今回の場合は給水管の水漏れで、しかも自分達の部屋の中に水が漏れていたのでもない。事前に分かりようがないのだ。トラブルが起きてから対処するものなんです、と言われても建ててから数十年の間になぜ一度も点検しなかったのかと思う。今月はそんなことばかり考えてしまっていたが、もうそれも終わりにしよう。

 兎にも角にもひと段落したということにして、映画を観ながら乾杯した。特に具体的な理由などなかったが、純愛映画を観たいと思い立つ。過去に一度だけ観たことがあって、原作の小説を読んだこともある。かなり昔のことだから細かな内容まで記憶しているわけではないけど、その当時は主題歌が有名になって、確かドラマシリーズにもなっていたのを覚えている。『世界の中心で、愛を叫ぶ』だ。酒のつまみには定番となったコンビニのポップコーン。それを2人で分けて食べる。どうしてこんなにも眩しく映るのだろう。それがフィクションであると知りながら、それでも目を細めたくなる。

 青春と呼ぶにはあまりにも儚い。愛と呼ぶにはあまりにも2人が手を取り合った時間が足りない。なのに失ったものはとても大きく、前に進もうとしているはずが気がつくと何かが袖を掴んで離さない。永遠とは時間の長さではなく、瞬きほどの一瞬の中に詰まった煌めきではないだろうか。もし僕が骨だけになってしまった時には、大切な人の手のひらの上から風と一緒にどこへとも知れず飛んでいきたい。

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