彼が断つもの

 興行収入が多いから作品がおもしろいとは限らない。僕は日常的にアニメーション映画を観る習慣はないが、『鬼滅の刃』という名の少年漫画が存在することは風の噂で聞いていた。ただ実際にその漫画を読んだことはないし、自分から手に入れて読む気もなかった。ある日自宅に姪っ子が遊びに来ていた時、パソコンでディズニー映画を彼女に観せていた。そして違う作品が観たいと言うから再生画面を閉じると、アニメ版の『鬼滅の刃』のサムネイルが偶然表示されて、彼女は断然それが気になると言い出して、結果的に第一話をその場にいた皆で視聴することになったのだ。

 姪っ子が観るくらいなのだから、幼い子ども向けの作品だと思っていた。だがその予想に大きく反して、1話冒頭から凄惨な描写を目の当たりにすることになる。おそらくこの世の中で最も自分の身には起きて欲しくない出来事の一つ、と言えば伝わるだろうか。僕がここでストーリーの詳細を書かなくても、ネットで検索してしまえばすぐに分かってしまうだろうけど、それでも細部は省きたいと思う。話を戻そう。主人公の妹ただ1人だけがかろうじて生き残ったわけだが、彼女は助かったとは到底言えない数奇な運命を兄と共に辿ることになる。

 純粋な人間ではなくなってしまった妹を元に戻す方法を見つける為に、主人公は異形の怪物達との闘いに身を投じることになる。少年漫画を研究してはいないがその王道と言っても差し支えないほど、やはり主人公は様々な葛藤を抱えながら、個性豊かな仲間達と出会い切磋琢磨して前向きに成長していくというのが大筋だ。そして失われつつあるものを取り戻す為に闘うのは、主人公達だけではない。敵となる猛者達でさえ、闘う理由は様々だ。そこには純粋な悪とは言い切れない事情が見え隠れしている。世界は黒と白の二つだけでは分けられないことを象徴しているようにも映る。

 Amazon Prime Videoで配信されていたので、1話から観始めた。何話まであるのか確認せずに再生し始めたが、シーズン1と表記されているから先は長いのだろう。そしてちょうど今映画館で公開されていて、日本の歴代興行収入で記録的な数字を叩き出している作品に、配信されているアニメと直接の繋がりがあるのかも確かめたいと思う。今の世間の状況の中での数字であって、平時に公開されていればと思うとある意味恐ろしくもある。そこには人々を引きつける何かしらの熱源が存在しているに違いない。ただ僕自身は映画館に足を運ぶことは今のところ考えてはいない。どれだけ作品が素晴らしいと言われても、それに遥かに勝る守るべきものや大切な人達が僕にはいる。この世界で唯一と言い切れるものだ。

 主人公・炭治郎の振るう刀が断ち切るのは、人々を蝕む悪ではなく、それによってもたらされる憎しみの連鎖だ。それは同時に、対峙した敵を殺す剣ではなく生かす剣でもある。

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