囁き唸り

 在宅勤務はまだまだ終わりそうにない。正直なことを言えば、もうオフィスに通勤して仕事をしたくないし、自分以外の誰かから指示された作業でお金を稼ぐこともしたくない。少しでも自分のやっていることが世の中を良くする為に貢献していると感じられるのなら、続ける意味もあるのかもしれないが今はそれが希薄になっている。でもだからといって、自分以外の誰かが別の仕事を用意してくれるとも思えない。やりたいことがあるのなら意思表示をして行動すればいい。難しく考えているのはいつも自分自身なのだから。

 仮住まいの部屋には革製の椅子が置いてあって、それに座りながら仕事をしたりブログを書いている。そして僕の後ろでは息子が布団の上で寝息を立てている。寝息を立てていると言っても、背を向けている状態ではほとんど何も聞こえてこない。反転したとしても、吐息を聴き取るのは難しい。時々彼は囁きにも似たような微かな唸り声を発するから、かろうじてそれが聞こえるくらいだ。両手は握ってもいないし、完全に開いているわけでもない。それは生まれた時から変わっていない。そして彼が生まれてから早くも5ヶ月が経とうとしている。

 最近は夜中になぜかばっちりと目が覚まして、そのまましばらく寝ない日が続いていた。そんな時でも僕はすやすやと眠ってしまっていて、仮住まいで生活し始めた週末もその傾向が続いていた。本人にだってコントロールしようがないのだから、僕らが合わせるしかない。多少は睡眠時間を犠牲にするかもしれないが、それは今に始まったことではない。もうすぐ5ヶ月になるのは息子だけではないのだ。僕と妻も親になって同じ時間が経とうとしているのだから、子育てと同時にある程度自分達の体調を整える方法は心得ているつもりだ。

 しかし予想に反して、昨日も今日も夜中に目覚めてしばらく起きたままでいることはなかった。不思議だ。特別何か普段と違うことをした覚えはない。仕事の合間に声を掛けたり、休憩時間には腕に抱いて遊んだり、いつも変わらない過ごし方をしていた。時々はそうした嬉しい想定外のことが起こる。思いがけずゆっくり寝られる日もある。それが分かっているから、例え寝られない日があったとしても乗り越えられる。前向きに捉えて、そこから子どもの些細な変化を感じ取って喜んだりする。毎日それの繰り返しだ。

 オリンピックが延期になって、自由に外に出掛けられなくなって、在宅で仕事をするようになり、水漏れを直す工事の為に仮住まいになったのも必ず何か意味があると信じている。無駄なものなど何ひとつないというのは、経験を無駄にはしないと自分で決めることだと思う。

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