8本
事情があって仮住まいになってから数日が経過した。必要な物を一度にまとめて持って来なかったので、何度も往復しながら最低限の物は揃えられた。折り畳みのプラスチックのトレイの中には、リュックサックに詰め込んで使う為のペットボトルが入っている。リュックサックは移動したけど、ペットボトルは新しくすることにした。仮住まいの部屋は廊下が狭く、リビングも大きなベッドフレームが置かれていて、余裕を持って身体を伸ばして腕立て伏せをする場所を確保するのが難しそうだ。とは言え、きっと狭くてもやる人はやるし、やらない人は言い訳を繰り返してやらないのだろう。自分は前者の人間でありたい。
夕飯を食べて息子が寝静まった後に、ペットボトルの水を買いにスーパーへ出掛けた。ポケットには新しく買い換えたばかりのiPhoneが収まっている。特に何かを写真に収めたいと思ったわけではないけど、何となく取り出してカメラを起動した。周りの建物に遮られて空は狭かったけど、駅前まで歩くと一気に目の前が開ける。早速下北沢駅に向かってスマホを構えてみる。さすがというべきか、最新型は以前よりも鮮明に写る。しかも自分の目で見るよりも、かなり景色が明るい。光量が少ない場面で自動的に働く機能らしいが、僕には少し不自然に見えるくらいだ。
画面の気になる部分をタッチして明るさを調整していると、今度は黄緑色の影のような物が数カ所に写り込んでいる。それをよく見ると、画面内の特に眩しい明かりや電飾と同じ形になっていることに気付いた。後で調べて分かったが、レンズ内に取り込んだ光が反射して起こる現象らしい。iPhone特有の症状ではなく、カメラの仕組み上のことで程度の差こそあれ起きるそうだ。レンズの周りに光量を抑えるカバーのようなパーツを付けたりするらしいが、iPhoneの場合は簡単ではないだろう。故障でないのならいずれ解決策が見つかるかもしれないので、自分でも調べながら付き合っていきたい。
スーパーに到着したらカゴをひとつ手に取った。棚にはペットボトルに入った常温の水がずらりと並んでいる。僕は2Lの水を端から掴んでカゴの中に並べていった。なるべく形が崩れていない物を選んだつもりだが、最近のペットボトルは飲み終わった後に処分しやすくする為か結構柔らかい。自分でそれらをへこませないように気を付けながら、両手でカゴを抱えてレジまで歩いていった。ペットボトルの重みでカゴの取っ手がかなりしなっていた。一歩足を踏み出す度にプラスチック製のそれが僅かに上下動している。外れて床に落ちるだけならまだしも、破裂して水が溢れてしまったらどうなるのだろう。でもまさかそれらをリュックサックに詰めてトレーニングに使うとは誰も思うまい。
レジ袋2枚で4本ずつに分けて、両手に持って仮住まいまで帰った。重みで指の関節にビニールが少しずつ食い込んで、血が止まってしまうかと思った。こんな物を背負って腕立て伏せをしていたのかと思うと、少しだけ自分に感心しそうになったがやめておく。この先、自分が目指す体型になる時までは。