塩梅
焼き鳥は塩に限る。あくまでも僕個人の話ということはご理解頂きたい。塩は、肉や野菜の味を一番素直に引き立ててくれる。肉であれば肉汁の旨味を引き出し、野菜であれば本来持っている甘みを引き立てる。タレが嫌いなわけではない。ただ、タレで食べてしまうとタレの味が真っ先に僕の下を蹂躙してしまい、味わいたい旨味に辿り着けない。全くもって僕の貧相な舌の責任なのだが好みは譲れない。
恋愛に関しては、後を引かずさっぱりしていたほうがいい。こんなことを言っておいて、恥ずかしながら僕は皆さんに胸を張れるほどの経験値はないかもしれない。何かトラブルになった時には、自分から身を引いてしまう。身を引くというか、解決方法がわからないまま自然消滅してしまうパターンと言えばいいだろうか。一度、大学の先輩を映画に誘ったことがある。確か狐が出てくる映画だった。電車で映画館へ向かう途中、けっこう話をする時間があったが何を喋ればいいのかわからず、会話の間の沈黙が積み重なった。結局、彼女とは付き合うこともできずに何の進展もなかった。
焼き鳥を食べに行くと、注文は大体同じ。ねぎま、砂肝、うずら、皮、つくねを頼む。もちろん塩でだ。一巡したら、長葱やピーマン串を頼んで口直しだ。ねぎまからもう一巡して更に旨味を楽しむ。ちなみに鶏皮はカリカリになるまで油を落としきってほしい。そう言って頼んでもカリカリの状態で出てくることはほとんどない。油が美味しいという人もいるだろう。それもわからなくはないが、微かに残った油をカリカリになった皮を噛んでいる間に滲みてくる感じで食べたいのだ。
串も嫉妬も、焼き過ぎは禁物だ。うまいこと言ったと思った皆さん、ありがとう。今日は祝日の前日だったので普段行かない焼き鳥屋に行ってみることにした。行きつけの店もあるのだが、たばこの匂いが気になるので、匂わなさそうな店を探して入った。結論から言うと、僕はあまり好きな店ではなかった。ほぼ塩で焼いてもらったが、いつも行く店より味が薄く感じた。具材の処理は綺麗だったし、店内の活気もあった。コーラを頼んで定番の具材を注文した。決してハズレだったとは言わない。僕の好みではなかっただけ。ただそれだけのことだ。
行ってみなければわからないことがある。話をしてみなければどんな人かわからないことがある。自分で感じなければ、理解できない痛みがある。失くしてから、手に入れていたことに気づくことがある。こぼれ落ちた後に、もう壊れてしまって元に戻らないことに気づく。世界にはまだまだ知らないことがたくさんありそうだ。