4ヶ月
僕が父親になってから4ヶ月が過ぎた。今の生活を10年前の自分は想像していなかったと思う。何となく過ごしている間に恋人ができるかもしれないし、できないかもしれない。そして平凡な毎日を過ごしながら、誰かと結婚して家庭を持つかもしれないし、持たないかもしれない。具体的にいつまでにこうしたいということはほとんど考えていなかった。実家を出て東京で一人暮らしを始めたし、自由に生きると決めたから例え結婚できなくても、自分の子どもがいなくてもそれは自分が選択した結果なのだから仕方がないと割り切っていた。結婚して子どもを作ることだけが、人生の全てではないと思っていた。
でもこの人となら、自分らしさを失わずにこれからも生きていけると思って結婚した。子どもができなくても、2人一緒なら幸せだと確信していたし、その気持ちに今も変わりはない。姪っ子や甥っ子が増えて彼らと接する度に、もし自分にも子どもがいたらと楽しい妄想ばかりしていた。先にこの世界に生まれて過ごしている自分が、若い彼らに伝えられることはきっと少なくない。例え自分の子どもではなくても、態度で示せるのなら惜しむ必要はないと思った。僕の家族も、小さい時からそう接してきてくれたから。
授かりものだから、自分達がどれだけ時間と労力を費やそうと結果に繋がらないことはあり得る。大切なことは楽しいことや嬉しいことだけではなく、辛いことや悲しいことに遭遇した時に、一緒にそれらを乗り越える喜びに変えることだと思う。僕はそう強く信じている。うまくいかないことがあって感情が乱されても思い出す。結婚式も披露宴もしていないから、大勢の前で誓いを立てたわけではない。でもたったひとりに心の底から誓ったのだから、僕はそれで充分初心に返ることができる。
妊娠していることが分かって泣いて、生まれた後すぐに退院できないことが分かり泣いて、やっと会えた時に泣いて、たった数週間の間に大きく成長していることに感極まってまた泣いた。4ヶ月は長かった。布団に入った後に泣きじゃくる息子に声を掛けながら、このまま朝が来ないのではないかと思った。そんなわけはないのに、自分がこの世で一番寝れてないんじゃないかとさえ思った。とはいえ実際のところは、僕は布団に入ると結構すぐに眠っていたようなので、夜中に起きる回数は少し増えたけど睡眠時間は変わらなかったように思う。
4ヶ月は短かった。長い夜と、あっという間に時間が過ぎる昼間を繰り返しながら毎日を過ごした。明日も明後日も、少し先の未来までずっと続いていくだろう。寝返りはまだしない。でも手を握って背中をそらせながら上半身を捻っている。お尻が重たいのか下半身はまだ付いてこれないようだ。でもそう思っていたら、ある日突然引っくり返るんだろう。彼には彼のペースがあるだろうから気長に待つことにしている。選んだ道の先で、こんなに素晴らしい日々が待っているとは知らなかった。苦労や葛藤さえ愛おしく思えるような日が必ず来ると強く思える。産んでくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。そばにいてくれてありがとう。