最初で最後
もう僕にはこの1回しか残されていない。最初から1回しか与えられていなかった。その1回は誰に与えられたんだろう。その誰かは人間だろうか。顔も名前も思い出せない誰か。もしかしたら人間ではない存在の可能性だってあるし、何もない空間にパッと現れただけかもしれない。そんな確かめようのない事柄に、頭を悩ませる時間すらが勿体なく感じている。誰かに宣告されたわけではない。過ぎ去っていく時間が、ある日唐突に教えてくれた。彼らはもう二度と僕の元には戻ってこないと。
24時間では足りないと思っている。やりたいことを考えている最中に、いつの間にか意識は過去の出来事に向かって飛んでいた。あの時の自分が選んだ行動とは違う方を選択していたら、今頃はこうなっていたと想像している。そしてもう取り返しが付かないということを、痛みにも似た感覚と共に突き付けられる。後悔しているのではない。今の状況に不満があるのではなくて、もっと良くなると信じているのだ。でも信じ続けようとする途中で、時々息が切れそうになって何かに掴まりたくなる。
その時に誰かが僕の手を取ってくれるだろうか。そのまま走り続けても、いつか倒れてしまうだろう。それなら手を握ってくれる誰かがいると信じて寄り掛かってもいい。足元から崩れ落ちてしまったら、身体が意志を取り戻すまで静かにしていればいい。その声は必ず自分で聴き取ることができるから。深い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと自分の中に降りて行く。一気には進めない。分厚い壁が行手を阻むのだから。岩のように硬いわけではないが、無理やり進もうとしても跳ね返される。勢いだけでは超えていけない場所だ。
とても深い闇が僕を包んでいる。遠くに見える小さな光の点を見つめながらひたすら歩き続ける。自分の足元すら見えないから、目標までどれくらい距離があるのかも検討が付かない。だからと言って一旦前に踏み出した足を後ろに引き戻すことはできない。それをしてしまえば、おそらくその場所から二度と動けなくなってしまう確かな予感がしたから。誰かに追いかけられているのではない。僕が遠くに視線を投げて追いかけているのは、僕自身なのかもしれないのだから。
もう気付いてるだろう。僕は僕以外の人間にはなれない。選択の余地はない。他の誰かの姿を追い続けても、向き合っているのはいつだって自分自身だ。弱く、腰が引けて、引っ込み思案で、本心をいつも隠して物事が過ぎ去って行くのをただ黙って眺めている。逃げていると思っていたものは、いつの間にか自分の足枷になって動きを止めてしまっていた。ただ本当は、足枷だと思っているのは自分だけで、それは簡単に引き千切れて前に進むことができる。気付くかどうかではなくて、教えられたかどうかではなくて、そう信じるかどうかだ。僕は僕のなりたい人間になる。僕は僕のなりたい人間になれると心の底から信じている。