一長一短

 この世に完璧な人間などきっといない。少なくとも僕はこれまでそんな人に出会った記憶はない。限りなく完璧に近いと思われる人や物であっても、それは万能と同じ意味ではない。不完全な人間が完璧なイメージを描きながら最善を尽くした結果、ほぼ完璧であると同時に不完全なものを生み出す。しかしそれは「不完全」というどちらかと言えばネガティブな言葉の響きとは別に、ある種の感動をもたらすこともある。それが芸術やスポーツなのか、それとも僕らが日常何気なく使っている道具なのかは、人によって全く違うだろう。万能ではないがたった一点に置いては比べられるものがないということに、いつも惹かれている気がしている。

 家でカレーを作る時に使っている木べら。深めの鍋のそこまでは届くのだけど余裕がある長さではないから、具材を強火で炒めていると拳が熱くなってくる。火を弱くすればもちろん収まるけど、調理時間が少し伸びる。出来上がりが変わらないのなら、時間は短い方を僕は選ぶ。あと10cmくらい柄が長いヘラがあればと思って、出掛ける度にお店で探してみるのだけど、中々希望通りの品には巡り会えない。普段は特別長くなくても事足りているんだろう。需要がなければ商品は売れない。僕はプロでもないから、一般的な調理器具が揃う店しか知らないのだ。

 自分の腕だけで幼い子どもを抱っこし続けたまま外に出掛けるのは、体力的にもキツいし両手が塞がって融通が利かない。大人に余裕が無くなってしまうと、咄嗟の時に子どもが危険だ。だから抱っこ紐を使うなら、しっかり支えられて安心感のある物を使いたいと思う親は少なくないはずだ。抱っこ紐と言っても、色々メーカーがあって商品の作りも違う。実際に身に付けてみなければ、自分の身体に合うのかも含めて把握し辛い。子どもへの負担も、支える大人への負担も極力減らしてくれるような品を求めていた。

 元々使っていた抱っこ紐は、肩で子どもの体重を支えるので腰への負担は少ない。抱いているというより、身体の前に子どもをぶら下げているという感じだ。生地はメッシュになっていて、体温の高い子どもでもある程度は風が通って熱を逃してくれる。ただ時間が経てば経つほど肩だけで支えているからか、その周辺に負担が増えてくる。もっと上半身全体で安定して支えられるような抱っこ紐があればと思っていた。頂き物の商品券を持って、百貨店の子ども用品売り場へベビーカーに息子を乗せて出掛けた。前回一度下見に来ていたので、気になっていた商品を再度試着させてもらい購入を決めた。

 購入した商品は肩にも紐が掛かってはいるけど、それだけでなく腰にもベルトをまわして支えられる。子どもの腰に付ける安全の為のベルトも備わっている。移動中の身体への負担はかなり軽減されて、体格に合わせて細かく調整できる部分も多くあるのだけど、それが僕にはかえって煩わしいと感じるところでもある。調整する箇所や、取り付ける箇所が元々所持していた物よりも多く、身体の背面にもあるので比較的取り付けに時間が掛かるし、自分ひとりでは手が届かないこともある。安全性を求めた結果なのかもしれないが、使い慣れた物は手軽に付けられるのが魅力だと思えた。

 二つを比べて、片方が良くてもう一方が悪いとは決められない。なぜなら一方の短所はもう一方の長所で、その逆もまた然りだからだ。いつまでも使う物ではないから、ひとつあればとも思ったが、子どもが増えた時に便利だと思ってこのまま維持しておく。体調に合わせて使い分けてもいい。できることならいつだって直接自分の腕で抱き上げたいのだけど、身体は正直だ。長所と短所を見極めて使い込んでいきたい。

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