速い遅い
二つ折りのガラケーを使っていた頃を思い出す。ネットには繋がっていたけど、ページにはほとんど文字だけが表示されていた。メールの送受信もできたけど、これもほとんど文字だけのやり取りだった。自分で撮影した写真を誰かに送信する、もしくは誰かから写真を受け取る。受け取った写真をそのまま画面上で確認することもできるけど、1枚の紙に上から少しずつ絵を印刷するように、一気には全体が表示されなかった。画面のドットは、目を近づけると肉眼で見える程粗かったが、今はどれだけ覗き込んだとしても捉えられない。
初めてiPhoneを使い始めた時、同時にそれは僕が初めて4Gの端末を使い始めた時だった。ガラケーで感じていた機械的なストレスはほとんど無くなった。そして今まで目的ごとに複数の電子機器を持ち歩いていたけど、その習慣も次第に消えていった。財布はいつも持ち歩くけど、今は実際にそこから現金を毎回取り出して支払うことも少なくなった。電車に乗る時には改札でスマホをかざし、喉が乾いたら自販機を見つけてまたスマホをかざしている。スマホがひとつあれば、他の荷物がいらない世界は、もう現実になっていた。
今使っているのはiPhone Xだ。約3年前に購入して、今年は買い替えを検討している。ケーブルを繋いだ時の反応が鈍くなっているし、電池の減りも早くなっている気がする。いわゆるヘビーユーザーには該当しないと思っているが、今年はiPhoneも5Gに対応するらしいから注目している。自宅で使っている固定回線は、今まで使っていたのとは別のサービスに変更した。大きな不満があったわけではない。ただ今よりも経済的になることと、通信速度の面でのメリットを考えて決断した。純粋により良い物を享受したいと思っているだけだ。
大きな不満はないと言ったが、実際に切り替えの工事が終わった後に通信速度をアプリで測ってみた。あくまでも素人の個人的な測定ではあるが、数字だけで言うと元々の通信事業者よりも10倍以上だった。事前に申込みに出掛けた時に店員から案内された数字を軽く超えていたから、スマホの画面に表示された数字を見てひとりで興奮してしまった。金額もほとんど変わらず、むしろスマホの料金が割引されるのでメリットしかないと感じた。もちろん理論上の数値と比べると半分以下なのだけど、体感的にはかなり速く感じる。
技術はきっとこれからも進歩し続ける。どこまで行ってしまうのか、知識の乏しい僕には近い未来のことぐらいしか想像できない。それでもその近い未来ですら、皆が快適に暮らせるようになるのではないかと思える話がたくさんある。通信が速いとか遅いという感覚は、このまま速度が速くなり続けたらいつか無くなってしまうと思う。ボタンを押した瞬間にページが表示されるのなら、それ以上の短い時間の間隔で長いとか短いとかを知覚できなくなっていくだろう。速いとか遅いという概念は消え去って、速いのが当たり前になる。速いという感覚すら無く、ほしい情報がほしいと思った瞬間には目の前に提示されるようになるはずだ。
技術に置いていかれないように、人間は進歩しなければならない。肉体的にも、精神的にも。しかし人間の為だけの技術となって身を滅ぼさないように祈っている。でも僕は人類代表ではないし、できることも限られているから、自分という人間を進歩させ続ける。