カレーなる行列
駅前には毎年恒例の黄色い屋根付きのブースが出来上がっていた。そしてその隣には金色のコスチュームに身を包んだサングラス姿の男性が佇んでいる。そう言えば下北沢の至る所に、タウンホールの屋上で撮影したであろう写真で作られたポスターを見つけることができる。そしてそのポスターにも、その金色の男は芝生の上に座っている。彼を見るのは下北沢駅前だけに限らない。別の通りを歩いていると、マイクで華麗なラップを披露しながら何やら宣伝しているようだ。この時期になると、カレーを求めて人々が街に集まってくる。
道を歩く人のほとんどが地図を広げている。それはある意味観光地図ではあるけど、街中のカレー屋の場所が所狭しと示されている。下北沢自体が比較的エリアとしては大きくない中で、なぜかカレーを提供する多くの店があるのだ。下北沢に住み始めて、カレーフェスティバルと名付けられたイベントの光景を見るのも慣れたけど、それでもカレーを食べる為にこんなにも集まるのか、と毎回驚くくらいの人混みだ。午前中に食べ始めたとして、皆1日で何食くらいカレー屋を梯子するのだろうか。カレーライスは一般的には軽食のカテゴリーには当てはまらないだろうから、1日カレーを食べ続けるにしても限度はあるだろう。
ちなみにお店に入ってご飯を食べることを、僕はかれこれ半年近く避けていた。最近久しぶりにラーメン屋に行ったけど、曇り空の下で屋外の席に座って子どもが眠っている間に麺を啜った。屋内が禁煙だから、おそらく煙草を吸いたい人達が座る席だと気付いたけど、注文してしまったので時既に遅しだった。僕らは静かに食べていたけど、道を通る荷台の音や走り去っていく原付の音が予想以上に大きくて、息子がベビーカーの中で驚いていた。気兼ねなく店に出掛けて、親子で美味しい料理を堪能できる日がなるべく早く訪れることを祈っている。
下北沢で今カレーフェスティバルを開催しているから、今晩カレーを作ったわけではない。自分が本当に食べたいカレーは、自分で作るしかないと思っている。外で食べるカレーより美味しいかどうかという問題ではない。探せば自炊するより美味しいカレーはいくらでもあるだろう。僕にとって初めてのカレーと言えば、実家にいた時に母が作ってくれたバーモントカレーの甘口だ。ただ僕は辛味が少しあった方が好みだったので何とかねだって中辛にしてもらったら、僕以外の全員が辛いと言って、次からまた甘口に戻ってしまった。更に言うと、僕はシーフードカレーが好きだが母は苦手だったので、それも実家で食べた記憶はほとんどない。
せっかく下北沢に住んでいるのだから、自作のカレーを極める為にもフェスティバルが開催されていない時期にこっそり巡ってもいいと思う。地図を見て、美味しい宝のような料理が食べられるのを想像しながら街を歩くのはきっと楽しい。家でどれだけ美味しく作れたとしても、店でお金を払って料理を振る舞われることでしか得られないこともあるはずだ。そして逆に悪戦苦闘しながら、何とか完成させた1杯のカレー皿を囲むことでしか得られないものも必ずある。