黄色い小鳥
数日だけ寒い場所に出掛けていたから、9月も終わろうとしている東京が暖かく感じる。開け放った窓から部屋に入ってくる涼しい外気の流れを肌で感じ取る。今年も残り約3ヶ月となった。もう年内はオフィスに戻って働くことはないかもしれない。そして2021年になったからといって、状況が劇的に変化することは同じくないかもしれない。ずっと言われていながら、中々社会全体が足並みを揃えられなかった「新しい日常」が始まるだろうし、今も少しずつではあるが変化の兆しが現れている。
道端に溜まった枯葉を、塵取りでせっせと集めてくれている人がいる。シャツの上に上着を羽織って歩く人の姿が随分と増えた。透明なプラスチックのカップに入った冷たい飲み物を片手に歩く人で溢れていた光景も、すっかりなりを潜めてしまった。簡単なベンチが置かれた小さなアスファルトの空き地で、控え目な音で太鼓を同じリズムで叩き続ける人がいる。本当なら秋祭りや何やらで、各地で人々の熱気に溢れる時季なのだろうけど、今年は静かな秋の空だ。太鼓を叩く彼の背中が小さく見えた。
フェンスで囲まれて何もなかった広いスペースに、いつの間にかアスファルトで固め始められている。独特の匂いが辺り一体に広がっていた。何度も嗅いだ記憶があるのに、アスファルトの匂いという言い方以外にうまく言葉で言い表せない。カラカラと乾いた独特の音を立てながら、敷かれたばかりのアスファルトが伸ばされていく。広いスペースには違いないが、何かが出来るのかそれとも新しい道路にでもなるのかは窺い知ることが出来ない。作り置きしていたカレーに入れる具材を買いにスーパーまで歩いた。
夕方に息子の体温を測ってみると38度だった。確かにいつもより少し額や下半身が火照っている気がする。昨日は予防接種だったし、接種後に一時的に発熱する場合があると医者から聞いていた。もちろん自分たちで100%断定は出来ないが、彼の様子から察するに家で経過を見ても良さそうな状態だった。熱が高めという以外は、特に普段と変わらない。食欲もあるし、おしゃべりも変わらずしている。絵本を持ってきて彼の隣に寝そべって読み聞かせても、興味津々のようで声を出している。油断ならないことに変わりはないが、そうやって少しだけ体調を崩したり元に戻ったりしながら、徐々に成長していくのかなとも思う。
絵本が3冊入って、0歳から読み聞かせられると謳われていた。最初は毎日1冊ずつと決めて読んでいたけど、最近はタイミングを見ては読んでいるので、日によっては3冊全て読んだり2周目に突入することも珍しくない。見開きの左側に文字が、そして右側に絵が描かれている。なぜか息子は絵よりも文字の方が気になるようで、彼の目線は大抵左側を向いている。まさか字が読めるとは思えないが、彼にとっては不思議な記号の羅列のように見えているのかもしれない。二つの瞳はページを見つめ続けていた。黄色い小鳥が牧場にやって来るのだけど、行かなければならないとすぐにまた飛び去っていくという話がある。そして僕はその話がなぜか3冊の中で一番気に入っている。