江ノ島、小田急に乗って

 小田急線に乗り片瀬江ノ島駅まで向かう。新宿から1時間以上かかるから、気軽にいける距離ではないかもしれない。ほぼ毎回急行に乗って藤沢まで行き、乗り換えで終点まで行く。新宿の高層ビルを後にして、代々木上原の高級住宅地を抜ける。高い建物は徐々に姿を消して、世田谷の閑静な住宅地が拡がる。そのうちに多摩川や堤防沿いの風景が目に入ってくる。電車が空いている時には、座って少し眠る。

 藤沢まで来ると、景色はだいぶ変わり建物同士の距離が空いてくる。高い建物も少ない。駅舎も、あくまでも個人的見解だが、東京のそれよりも古い気がする。片瀬江ノ島行きの電車は、大体空いているので座ってゆっくりする。走り出した電車の窓からは、小高い山が見え始める。海はまだ見えない。停車する駅ごとに乗り込む客も少なくなり、とうとう片瀬江ノ島駅に着いた。

 駅のホームに降りると、潮の香りが漂う。改札を出ると、風が吹く。僕が江ノ島に行く時は、大体風が吹いている。江ノ島に向かって砂浜を横目に橋を渡っていく。貝殻はほとんど落ちていないので、裸足で駆け回ったら気持ちいいだろう。夏には、海の家や水着を着た客で賑やかになる。地元の学生がステージに立ってパフォーマンスしているのを見かけた時もあった。橋の途中では、風景画や手作りと思われるアクセサリーを売っている人や、観光客がスマホ片手に写真を撮っている。歩き疲れた子どもが、眠そうな顔をしてとぼとぼと歩いていた。

 橋を渡り切って、今度は緩やかな坂道に差し掛かる。途中で海鮮を丸ごと挟んで薄焼きにした煎餅を買って、ばりばり音を立てながら食べ歩く。坂道が終わって、階段をしばらく登る。下半身に心地よい張りを感じる頃に上に着く。

 そこで終わりかと思ったら、まだ半分しか来ていない。島の向こうの太平洋側まで移動して夕陽を見よう。まだ呼吸は弾んだ状態のまま、降りたり登ったりを繰り返す。額に汗が滲んで、息も更に上がってきた。到着間際の、最後の急な階段上に茂る枝の隙間から太陽の光がこぼれている。緑の葉が強く光を放ってちらついている。階段を降りると、大小様々な岩が現れる。波が打ち寄せて音を立てている。白い泡になって岩肌を洗っていく。海の向こうに太陽が燃えていた。その橙色の光は、海面を照らし、光の道をつくっていた。海風が優しく水面を撫で、細かく波を打っている。

 一度、大きな台風が過ぎ去った年の秋に出掛けた時には、波打ち際の手すりが破壊されていたこともあった。海は、綺麗で穏やかな日ばかりではないのだ。また何度でも行こう。そして波の音に身を任せて、何度でも心を開こう。

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