9月の朝
いつまでもTシャツと半ズボンで出掛けられると思っていた。もちろんそんなはずはないのだけど、そんな天気になるのを期待して眠った。深夜に一度は必ず起きる。起こされると言った方が近いかもしれないが、息子のおむつを交換する為に横になりながら両足を軽く持ち上げたりしている。眠る前に飲んだコップ1杯の水と同じ量の水分が、渦と一緒になりながら陶器の底に吸い込まれていった。分厚いカーテンの隙間からは、既に薄暗い朝の光が入り込んでいる。そういえば台風は今どこにいるのだろう。
薄手のタオルケット1枚で身体を覆っていた。特別大きくないのに、自分の身体は大きいから手足がはみ出してしまう。エアコンの除湿は前日からスイッチを切ってあるはずなのに、部屋の中は涼しかった。自分の身体の熱はタオルケットの中で巡らずに、部屋の涼しい空気の中に紛れてしまう。肩まで被っていても、どことなく頼りなくて肌寒さを感じた。9月はまだまだ暑いという人もいるけど、真夏はとっくに過ぎ去ってしまって、道路に落ちる枯れ葉が目立つ季節だ。歩く度に枯れ葉の割れる乾いた音はしないけど、あっという間に10月になる。
今年はもう半分以上、在宅勤務を続けていることになる。今の様子からいくと、来月だけではなく年内はずっと今の就労形態を継続することになるのではと個人的には強く感じている。望む望まないに関わらず、それまでと全く同じ環境にはもう戻れない。パソコンやスマホの画面越しばかりで人に会っているから、時々誰かと直接話をするととても新鮮な気持ちになる。締め切った部屋の窓を全開にして、新鮮な空気で室内を満たした時のような開放感がある。
毎朝ベランダ側の窓と、キッチンの窓を換気の為に開けている。今日は昨日にも増して入ってくる空気が冷たかった。台風が近くにいるのなら、もっと雨が色々な物の表面を打つ音が耳障りなはずだ。いつもと変わらない静かな朝。いつもとは違う冷たい空気。時間は止まらないという当たり前のことを思って、その止まらない時間の中で生きていることを再確認する。午前中に予定があって朝早くに出掛けた。久しぶりに長ズボンに履き替えて歩き出した。
空は曇っていて、太陽の光はどこにも届いていないようだ。道路を行き交うのは、少数のトラックやタクシーだけで人影はまばらだ。初老の男性がほうきで道に落ちているごみを集めていた。スーツを着た若い男は、気怠そうな表情でタバコを蒸しながら駅に向かって行った。もう今日という日が始まって約3分の1が経っていることを思いながら、濡れたアスファルトをサンダルで踏んで進んだ。もう一度くらい暖かい日が続いて、残り僅かな残暑に汗をかいて冬の前触れに備えたい。