夢でハワイ
とても浅い眠りだった。夏の夜はエアコンの温度設定が難しい。寝る前の快適な室温を一晩中保つのは至難の技だ。少なくとも僕の住んでいる環境では。寒がりと暑がりが同じ部屋にいても、それぞれの人間が寝ている付近だけ冷やしたり温めたりしてくれたら最高なのだけど。夜中に起きる事は以前よりもかなり増えたけど、夢を見るのは久しぶりだった。今まで見たのは覚めたくないものも、覚めて良かったと思える夢もどちらもあった。そして今日の夢は決して悪い夢とは言えない。
あくまでも夢の中の話であって、実際に僕が現地に行った事があるわけではない。そして何と言っても眠っている時に見た夢で、記憶を辿りながら書いているし、時には僕の創作も含まれている。こうであればいいという楽観的な視点も含まれている事を先に言っておく。さて僕の眼前には見た事のない色の海が広がっている。水色と黄緑色のちょうど間くらい。そしてとても透明な海だ。海水なので当然舐めるとしょっぱいのだろうけど、そんな予感を少しも感じさせない程の透明な水だ。波が立って出来る細かな影が、全く薄まる事なく浅瀬の底で踊っていた。
僕は透明なボートでゆっくり水面を滑るように進んでいく。ボートの先端が水面を切り開く事で側面から後方にかけて発生する波の形が、まるで軽やかに空中を羽ばたく翼のように広がっていく。あまりにも水が透明だから、海と空の境界線のない空間を漂っているようにも見える。そしていつの間にか僕の身体も太陽の光に照らされながら、水に溶け出して自然と一体になるような開放感を味わっていた。うとうとしていたんだろう。目を開けると、ハイビスカスの花が添えられた新鮮なパイナップルジュースがグラスで用意されていた。刺さっているストローは敢えて使わずに、僕は少しずつそれを流し込んで喉を冷やした。
ハワイの海を漂いながらボートは進み続ける。実際にはあり得ない話だとは思うが、海から眺める陸地の景色から緑の植物達が極端に少なくなってしまっていた。その代わりに砂地に変わっていて、時折風がそれらを巻き上げて視界が霞んだ。陸地の奥にはピラミッドが見える。ハワイにはきっとピラミッドはない。いつの間にかエジプトに来てしまったようだ。もちろんエジプトにも実際に行った事はない。ピラミッドがあったり、ナイル川が流れているといった誰でも知っていそうなイメージしか湧かない。
海や川には水がある。人間が生きて行くには水が必要不可欠だ。だから海や川の近くに人が集まって街が出来るというのは、動物としての適切な選択のように思う。海も川も流れがあって、絶えず動き続けている。水は場所によって柔軟に姿形を変えて生き物を潤し続ける。だから人間はその流れの一部であって、その流れを根本から変えてしまうというのは傲慢な考えだし、自然の力というのは僕が想像している以上に巨大なエネルギーと未知の現象で溢れているはずだ。人間の可能性を信じながら、自然に生かされているという気持ちは忘れずにいたい。