跳ね走る
駐車場に止めてある2台の車の間を、さっきから行ったり来たりしている。そんな姿を眺めていたら、「おじちゃん!」と元気な声で呼ばれてなぜか僕もそのかけっこに加わる事になった。何をしていたかと言えば、単純に車から車目掛けて走って止まってを繰り返していただけだ。距離で言っても車3台分くらいで、大人なら一瞬で反対側に着いてしまう。姪っ子の「よ〜い、どん!」の掛け声を合図に一緒に走り出した。もちろん本気を出せば僕が先にゴールに辿り着く。そしてもちろん僕はそんな大人気ない事はしない。
そうは言っても、毎回姪っ子を先に走らせていても変化がなくて面白くないとも思う。だからスタート直後は出遅れたと思わせて、途中から一気に追い上げる。そうするとそれが面白かったのか、声を上げてはしゃいでいた。2人とも走り切って終わりかと思っていたら、「よ〜い、どん!」がまた聞こえてきて延々と走り続ける事になった。駐車場は日陰になっているとは言え、炎天下の中だから涼しくはない。僕も彼女も汗だくになりながら、いつまでも狭い駐車場のスペースで他の車に気を配りながら走り回っていた。
姪っ子の走り方をずっと見ていて気付いたのだけど、地面を足で蹴飛ばして動いている。そこまでは大人とほとんど同じ動きだが、地面を蹴飛ばした後に身体が上に向かって必要以上に跳ねているように感じた。地面を蹴った力がまだうまく前進する力に変わっていないのかなと、素人ながら勝手に分析していた。そろそろ解散しようかとなった時、姪っ子は両膝に手を付いて前傾姿勢になって息を切らしていた。着ていたボーダーのシャツと短パンが、まるでラグビー日本代表のユニホームに見えて「小さい代表選手やな」と心の中で呟いていた。
姪っ子だけに限った事ではない。もっと身近に自分の息子がいる。毎日朝起きて夜寝るまでの間に、出来るようになった事が見つかる。今まで聞いた事のない声を挙げたり、見た事のないような動きをする。大人になって途方のない時間を掛けても習得出来る事ばかりではない。それに比べると、まるでスポンジのように吸収して変化していく。こちらから何かを教えるというのではない。発する言葉をお互いが完全に理解しているのではないから。それでも以前よりもこちらの動きや言葉に対して、リアクションが返ってくるようになっている。
夜に眠って朝に起きる度に、自分で出来る事が増えているような気でいても、まだ生まれてから2ヶ月しか経っていない事を何度も思い返す。出来るだろうと期待して何もしないのではなく、出来ると信じながら現時点の状態を冷静に見定めて手を差し伸べる必要がある。言葉には出せなくてもきっと必要とされているはずだから。いつの日にか追い越されるとしても、追い越すのならなるべく先の方まで進んで越していってほしい。数段飛ばしで追い掛けてくるから、僕はこの先も走り続ける。