白うさぎ

 白と淡いオレンジ色のボーダーの布が巻き付けられている。それはアーチ状になっていて、両端は同じくボーダー柄の布で包まれたペットボトルを重しにして床に置かれている。手作りした幾つかの人形が糸で吊るされている。青と白が混じった象、エメラルドブルーの星、オレンジ色の月、青い雲、アンパンマンの顔、そして中に鈴が入れられて胴体の部分に穴が空いている白いうさぎだ。機嫌が良く横になっている息子の身体を跨ぐようにしてそれを設置すると、ひとりで声を挙げながら彼らと何か話をしている。

 息子を抱っこしたまま体重計に乗ってみる。2人分の合計した体重が分かったら、今度は息子を降ろして僕だけがもう一度乗る。そうすると当然僕だけの体重が分かるから、差し引きした数字が子どもの体重となる。あくまでも目安ではあるが、時々そうして体重がどれくらい増えているのかを確認している。体重計に乗らなくたって、週単位で様子を見れば体重以外の明らかな変化が感じられる。抱き上げた時に腕で感じる身体の重みが違ったり、横に寝かせている時に出している声が、最近はとても活発で変化に富むようになっている。

 今住んでいる部屋が、彼にとってはやっと慣れ始めた世界で、一歩外に出ればそこは宇宙見たいな場所だ。照り付ける太陽も、熱を持ったアスファルトも、道行く人々の顔も、通り過ぎる車や自転車も全て彼の視界に飛び込んで来る未知の飛来物なのだ。それが直接彼に向かってぶつかるのではないけれど、視界に入ったその瞬間ごとに刺激となって変化を促しているようだ。小型の扇風機で暑さを和らげながら、スーパーへと向かう。抱っこ紐から出ている手足は脱力していて、顔を覗き込むとうとうとしている。

 涼しい店内に入って目的の品をカゴに入れていく。息子は完全に眠っていて、外の熱で火照った身体も冷房で少し冷めたようだった。一歩歩くごとに手足がぶらぶらと揺れている。大人達はスマホを見たり、棚に並べられた商品を選ぶのに忙しくしているのに、彼だけは別の時間を生きているようだ。身の回りの風景は、何も着せられていない裸体のように無防備にその姿を彼の瞳に映している。初めての事に出会っても、大人なら良い意味で経験則というのが働くだろうが、彼にはきっとそれはない。

 帰宅してベッドの上に座る。僕は彼を縦抱きにして腰の上に乗せた。首の力が最近とても強くなってきたので、少しずつ彼を前傾姿勢にしてみる。今までだったら縦抱きになっただけで首が結構ふらついていたけど、今は彼自身がそのふらつきを抑えようとしているのが分かる。結果的に首が座り掛けていると言ってもいいのではないかと思う。身体を更に倒してほぼうつ伏せのような姿勢になっても、しばらく彼の頭は宙に浮いたままだった。初めて彼と会った時にも、生まれてから1ヶ月経った時にも泣いた。生まれてすぐに会えなかった分、ほんの少しの変化でも僕にとっては何よりも尊い出来事だ。枕をクッションに壁にもたれながら僕は泣いていた。首を一生懸命に持ち上げ続けようとする息子を、力一杯抱きしめながら。

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