食べねば
部屋の玄関からマンションの入り口までは太陽の光が直接当たらない。背の高い気が植っていて、繁っている葉が影を作っている。しかしどこからかやって来た生暖かい風は、不快感と共に僕の眉間に皺を作らせた。いつものように買い物バッグを折り畳んで詰め込んだ鞄を肩から下げて出掛ける。危険な暑さだと天気予報やネットニュースで言われていた。確かにその危うさを知るのに、外に出てからそう時間は掛からない。出発前には麦茶をグラスに2杯飲んで、ポケットにはハンカチタオルを入れておいた。
味付けの濃い料理ばかりを立て続けに今週は食べたので、今日はさっぱりした料理で野菜もたくさん食べたいと思った。アスパラガスをよく買うようになったのだけど、元々使っていたピーラーが壊れてしまって不便だった。給料日だった事もあって、ある程度物になりそうなピーラーを品定めに向かった。店内はエアコンが程よく効いていて涼しい。店に入って最初に見つけたのはプラスチック製のピーラーだ。他にも種類があると思って店内を探していると、すぐ側に幾つか種類の違う別の商品を発見した。小型ではあるが、ステンレス製と謳うピーラーを手に取って支払を済ませた。
ドラッグストアで切らしていたボディソープとシャンプーを買い揃える。息子の身体を洗う為に使っている石鹸ソープを、自分でも使ってみたくなったので手頃な値段の商品を見つけ一緒に購入した。ドラッグストアによって店内の冷房の効き具合がかなり違って、自分ならある程度効いていないと、汗だくになりながら接客する事になるんだろうなと考えながら素早く店を出た。タオルハンカチでは次々と額に浮かび上がる汗に追いつかない。早足になっていつものスーパーを目指した。
しゃぶしゃぶ用の豚肉をカゴに入れる。冷蔵庫のドレッシングが残り僅かだったから同じ商品を買った。野菜はなるべくたくさん入れたい。普通のレタスがここ最近ずっと値段が高いままなので、渋々サニーレタスにした。緑色のネットに包まれた緑のオクラと、パックに入った細めで薄い緑のアスパラガスも合わせてカゴに入れた。既にその時他の店で買った品が買い物バッグに半分弱詰まっていたので、会計が終わって品物をバッグにしまいながら、溢れてしまわないか少しだけ心配した。心配した割には、家までの道で容赦なく照り付ける日差しを除いて何も問題はなかった。
米を研いで炊飯器にセットし、味噌汁の為に出汁を取る。昆布と鰹節だ。昆布は本来沸騰する前に取り出さないといけないのだけど、今日はそのタイミングを逃した。粘液のような透明な糸を引く昆布を、箸で摘んで取り出す。そのまま鰹節を入れて蓋をした。大きめに切った豆腐と、水で少し戻したワカメ、そして下茹でしておいたなめこを味噌を溶いた出汁に投入する。炊きたてのご飯と味噌汁、おかずになるのは特盛の冷しゃぶサラダだ。燃料がなければ肉体はいつか動かなくなってしまう。命のストックはないのだから、食べられる時にしっかり食べる。しっかり食べて、しっかり生きる。