卒業、囚われずに

 1年間の留学後、大学4年生になった。留学中に履修した演劇のクラスは、日本で振り替えられる科目がなく、卒業に必要な単位を取るために講義を受けに通った。卒業論文も書かなくてはならない。留学中に勉強した演技と、海外実習でニューヨークで観賞したミュージカルの影響で、ウエストサイドストーリーをテーマに執筆することにした。

 留学中に始めたトレーニングは大学の施設に通って継続したが、筋トレのきっかけになった漫画がある。刃牙シリーズを留学前に読み始めてとてもおもしろいと思った。もちろんフィクションではあるが、作中に登場するキャラクター達の体型や動きが躍動していて美しいと思った。冗談抜きでこんなムキムキの身体になりたいと憧れた。今でも自宅でトレーニングを継続しているが、時々読んで刺激をもらっている。

 周りの学生が、就活の話をしていても自分はあまり関心を持てなかった。もちろん働く気がないわけではない。お金を稼いで豊かに暮らしたいと強く思っていた。ただ、スーツを着てビジネス鞄を片手に就活に忙しくする自分が想像できなかった。今まで誰も辿らなかった生き方をしたいと考えるようになった。「就活どう?」と誰かに聞かれる度、誰もが就活している前提のように話しかけられている気がして、鬱陶しさを感じることもあった。

 やりたいことだけやって生きていく。具体的な方法が見つからないまま、卒業を迎えた。卒論も無事に書き終えて単位も必要な分は取得できた。就職が決まっていなかった僕は、一旦地元に帰ることにした。トレーニングする機会がなくなると思い、地元にあったスポーツクラブに入会する。すると、そこで働いていた小学校の同級生に再会し、近況を話すと一緒に働かないかと誘ってくれた。収入のあてもなかったし、働きながらジムも使えると思いアルバイトで採用してもらうことになった。

 そのスポーツクラブでは、トレーニングジムとスイミングスクールの両方を運営していた。かなづちではないが水泳経験はほとんどなかった僕も、ジムでのトレーニング指導の傍らスイミングの指導に携わることになる。主にスクールに通っていたのは小学生だった。今まで誰かに何かを教える経験がなかったので最初はどう接していいか分からずあまり楽しめなかった。しかし少しずつ慣れてきて、子ども達とどう接すればいいかが掴めてきた。自分以外の誰かの成長を、嬉しく感じていることに少し驚きもした。余裕が出てくると、伸び伸びと元気に過ごす子ども達がとても眩しく思えるようになった。

 自分は今、眩しく輝いているだろうか。自分に問わずにはいられなかった。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

カナダ

前の記事

生きれる、もっと自由に
未分類

次の記事

悲しみはいつも突然に