温熟バナナ
部屋の中は湿度が高く暖かいのに、外に出ると半ズボンでは少し肌寒いくらいだ。7月も半ばに差し掛かっているのに、あの焼けるような夏の日差しの気配はどこにも感じられない。でも太陽はどこにも逃げも隠れもしていないのだ。むしろ太陽の周りを地球を含めた色々な星達が巡り続けている。そして太陽は変わらずずっとそこにいるのだけど、雲や雨やらがその光を遮っているだけだ。目に見えていないからと言ってそこに何もないと思うのは、見落としてはいけないものを手の平からこぼすようなものだ。
いつものように僕はスーパーに袋の生麺のラーメンを買いに出掛ける。昼食はこの1ヶ月くらいはその同じラーメンを食べ続けている。地元だと大きなショッピングセンターのフードコートにある有名なお店なのだが、東京都内では少なくとも僕は見掛けたことはない。でも食べられないわけではない。生麺タイプだけではなく、乾麺タイプのカップ麺なら都内でも手に入るから、それを買って食べれば満足する。
レジ袋が有料になってからしばらく経ったが、ちょっとした買い物だと商品を選んでレジ前で並んでいる時に、エコバッグを持ってき忘れたことに気付く。その時点で商品を棚に全て戻してからバッグを家に取りに帰るのは、あまり現実的な選択肢とは僕には思えない。それに数円払って袋をもらっても、キッチンでゴミを入れる袋に使えるから完全に損とも言い切れない。100円ショップでキッチンのゴミ専用に使う袋を買っているくらいなのだから。
バナナケーキを家で作る為に、小さめのケーキカップを探しに行った。特別で手に入らない商品ではないのでそれはすぐに見つかる。並んでいるそれにはいくつかの種類がある。家の調理器具は小型のオーブンレンジなのだが、レンジには使えるがオーブンは使えないタイプがあり、またその逆も然りだ。オーブンとレンジの加熱の仕組みが違うというのは何となく分かっているけど、頻繁に使う物ではないから1種類で色々と兼用できたらと思う。どちらでもいいようにレンジとオーブンそれぞれに対応している物を一つずつ買うことにした。
家に帰ると午前中に温めてあったバナナが黒く変色し、甘い匂いを漂わせていた。ちなみにカップケーキを作るのは僕ではなく妻だ。今のところは僕が買い物担当になって毎日必要な物や食材を求めて出掛けているるというわけだ。世界は今日も混沌としている。皆口には出さないけど、僕も含めて大なり小なり不安を抱えているはずだ。世界の混沌としたものを晴らす力は僕にはほとんどないと言っていい。あるのは世界と比べたらあまりにも些細ではあるかもしれないけれど、日常という僕の世界を守って生きるという固い意志だ。温めなくてもバナナは黒くなっていく。時間も流れ続けている。