3人で初めて
機嫌が良さそうだ。おっぱいとミルクを腹一杯飲んでまったりしている。もちろんそれは僕ではない。30年以上前に同じようにしていたはずだけど、記憶には残っていない。母の胸に抱かれていたように、彼も妻の胸の中で声にならないほどの小さな声をあげている。コンビ肌着に身を包んだ息子を両手で抱き上げる。部屋に出してあった三脚にスマホをセットして、3人がベッドの上に身を寄せて座った。タイマーをセットして、初めて親子3人で同じ写真に映る。その写真をいつまでも見つめていた。きっとこの先何度も見返すことになるその写真を。
昨日は部屋のエアコンの風除けに四苦八苦していたのに、今日窓を開けるととても涼しい風が部屋に吹き込んできた。そう言えば息子が家に戻って来てから一度もテレビを付けていない。天気予報も見ていない。でも天気予報は、いつもスマホのアプリで確認しているから問題ない。テレビにしたって、ネットニュースで大抵の事は情報として手に入るから不自由していない。それまでは当たり前のようにスイッチを入れてご飯を食べながら見ていたのに。
その沈黙を保ったままのテレビの上には、絵本を切り抜いたイラストが飾ってあって、その隣には僕の父に頼んで書いてもらった息子の命名書がある。すぐに使うつもりだったバウンサーは新生児には使えない事が分かって、そのまま壁に立て掛けてある。使わない物は極力処分しているけど、家族の人数が増えるとそれなりにまた増えていくものだ。それらは必要な物だから仕方ない。増える事が問題なのではなくて、いかに増えた分も含めて整理整頓できるかという所に、生活の質を向上させるヒントがたくさん詰まっている。
風呂場には100円ショップで買った細めの突っ張り棒を付けた。沐浴で使うベビーバスに元々付いていたであろう吸盤が取れていて、本来ならそれを壁に付ければ干せる。譲ってもらった物だったからか、吸盤らしきパーツが付いていなかったので、突っ張り棒にフックを引っ掛けて乾燥できるようにした。ベビーバスに張ったお湯とは別で、おけにもお湯を準備する。そのおけを買った時にはフックを掛ける穴が空いていなかった。何とかしたかった僕は、家にあった電動ドライバーを使ってフックが通る大きさの穴を作った。そして今は前述の突っ張り棒に、ベビーバスと一緒にぶら下がっている。
寝不足なのかどうかは分からない。けど細切れでしか寝ていないような気はしている。昼間に強い眠気を感じることはない。眠りながらずっと気を張っているような感覚。横になってはいても、ずっと浅い眠りの中にとどまっているような心地だ。今日も夜が始まって起き上がる。