同じ景色

 東京には今日も雨が降る。どこかに置き忘れてしまった黒い柄のビニール傘の代わりに、白い取手のビニール傘を持って出掛けた。空気はたっぷり湿り気を含んでいたが、風が少しあったからなのか肌にまとわり付くような不快感はほとんどなかった。太陽は顔を出さず、鼠色の雲が空に蓋をしている。月曜日の下北沢は、まだ少しだけ週末の騒ぎの名残を漂わせてはいるけど静かだった。金曜日は有給で休んで、土曜と日曜はいつもよりも長く濃い時間を過ごしたと思う。

 昨日出掛けた回転寿司。昼時だったからとても混雑していた。昔はそれでも並ぶしかなかったけど、今は事前に予約すれば別の事に時間を使える。指定された時間にお店に戻ってくれば、待ち時間はとても少ない。モニターは次に呼ばれる番号を表示しているので、いつ来るかも分からない順番をひたすら待ち続けるストレスもほぼない。そして何より100円回転寿司の魅力は、値段の割に美味しい寿司が食べられるという事だろう。

 注文をする為に店員さんに声を掛ける。忙しい時間帯は中々自分達の席まで来てくれない。無視されているわけではなく、注文をしたいお客さんがたくさんいるから順番に伺っているだけなのだけど、待っている方は早く寿司にありつきたいと思っている。しかし現代の回転寿司は、座った席にモニターが備え付けられ、注文はタッチパネルでいつでも可能だ。頼んだ後はレーンに勝手に流れて来るので、気付かずにやり過ごしてしまわなければストレスフリーだ。家族で出掛ける時には、皿が通り過ぎて手が届かなくなってしまう限界まで取らずに遊んだこともあった。

 肝心な寿司に関しても、100円という値段の割にネタが大きく種類も豊富だ。高くても300円くらいなので、回らない寿司屋に比べれば随分安い。頭数が多い家族には抜群に費用対効果が高いはずだ。ただ僕は回らない寿司も負けず劣らず好きだ。久し振りに回転寿司を食べて感じたのは、回転寿司も回らない寿司も、値段に見合った満足感を与えてくれるということだった。100円では食べられないけど、支払った値段に見合った体験を提供してくれるお店もあるし、100円で食べられるのにその値段から想定される期待値をきちんと超えて来る。どちらも素晴らしい。

 甲州街道をレンタカーで走る。下北沢に引っ越した時にも、そう言えばこの通りをハイエースに荷物を積んで運転した事を思い出す。通る道は同じでも、昔と今では印象が変わる。同じ景色を見ているはずなのに僕は何だか新鮮な気持ちになる。夕方の下北沢。もう住み始めて3年くらいが経過している。1週間振りに、たった1週間しか経っていないのだけど、2人で外を歩いた。初めて東京に来た時の事を思い出す。そう言いながら、買い物袋を片手に家路に着いた。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

未分類

前の記事

コット
未分類

次の記事

10:21の電話