海外、カナダへ
日本にいた時には沸くことのなかった感情や思いに戸惑い、魅了された。
大学3年の1年間を海外で留学することになった。行き先はリジャイナというカナダの小さな町。ダウンタウンから少し離れたところに大学があった。大きな湖があり日本と違って湿度が高くないので夏でも過ごしやすい。ただ冬はかなり寒く、大きく息を吸い込むと肺が痛むほどだ。
現地ではまず、大学で授業を受ける前に各国の留学生と一緒に英語の集中レッスンを受けることになった。いつくかのクラスに分けられていて、最上位クラスで合格点の成績を出せば大学で授業を受けられることになっていた。日常生活も授業も全て原則英語なので最初はきつかったけど、せっかく機会を得たのだからできる限りのことはやった。ちょうどその頃、ハリーポッターが全盛期で日本でも映画が公開され話題になっていた。現地の本屋へ出かけて、英語版のハリーポッターを全巻購入して、半年で読破することを自らに課した。それが功を奏したのか、半年間で上位クラスをパスし大学で授業を受けられることになった。
カナダ人や他の国からの学生に混じって席につき、英語の講義を受ける。日本で、日本語の講義を聞くのが日常だったので、とても新鮮な体験だった。と同時に、英語力不足を痛切に感じた。痛切に感じたのだけれど、まだまだ伸び代があると自分なりに前向きに捉えることにした。
受ける授業はある程度自分で選択できたので、演劇の授業を受けることにした。日本の大学の学園祭で演じたことに加え、もうひとつとても演技に魅了される体験をしたからだった。1年間の留学前に、参加必須の海外実習で数週間リジャイナとアメリカを含めた数カ所に訪れていた。その中で特に印象に残ったのが、ニューヨークでブロードウェイミュージカルを観賞したこと。ライオンキングとターザンを観たが、とても感動したのを覚えている。ニューヨークの煌びやかな街並みも鮮やかだった。刺激的なその体験に後押しされた。
講義もクラスメイトとのやりとりも、もちろん全て英語。おまけに実技もあるので、先生の指示も次から次へと飛んでくる。それまでのどんな時期よりも勉学に励んだ。日本にいるだけでは得られなかった経験が、確実に自分の糧になっている実感に満ちていた日々だった。