きらきらネーム

 トートバッグにペットボトルを詰め込んでアームカールをしていた。子どもが両親を呼びながら泣き叫ぶ声がどこかから聞こえてくる。日は落ちて外は薄暗かった。その声にはとても切実な響きが感じられた。絶対に今でないといけない、という必死の訴えが嗚咽と共に身体中から溢れ出したような叫び。自分の部屋で大量の汗を掻いている僕には状況は一切分からない。しばらくすると声は聞こえなくなった。おそらく男の子だと思われる彼の安全を祈りながら、今日のトレーニングを終えた。

 今朝は涼しかった。近所を少しだけ歩いて家に帰ってから軽めのシャワーを浴びて一度目のトレーニングを始めた。少しだけのつもりがシャワーでかなり身体が温まってしまったらしく、腕立て伏せを始める前から汗が吹き出していた。リュックサックにはいつものようにペットボトル達がじっと収まっている。水を入れられただけの普通のペットボトル。トレーニングの間にリュックの中で擦れ合うのだろう。ラベルの文字がはげていたり、ラベル自体が取れてしまっているものがほとんどだ。

 久し振りのトレーニングでかなり疲労が溜まってしまった。疲れることは仕方ないとしても、やはり身体を動かすことは気持ちがいい。余計な考えや曖昧な不安が消えて清々しい気持ちになる。前向きになって外に出掛けたい気分になる。昨日は区役所まで電車に乗って出掛けた。都知事選挙の期日前投票の為だ。最寄り駅からすぐだと思って歩き出したけど、日差しが強くて日陰を選んで歩いていても汗ばんでくる。緩やかな下り坂と上り坂が余計に体力を奪う。それでも何とか会場に着いた。エアコンが効いていて涼しい。僕ら以外には誰もいなかったし、今回の候補者の数がかなり多かったのに驚いた。帰りは来た道とは違う、極力暑くなさそうな通りを選んで帰った。

 妻が「お腹が張っている」と言うと僕はもしかしてと思ってしまう。知人が譲ってくれた出産マニュアルを抜粋して読んでイメージはできているつもりでも、いざとなると動揺してしまう。今のところはもしかしてと思った時に何か起こったわけではないけど、予定日までもう半月もないので、眠る前には「次の朝には…」と妄想する。ただ実際は僕よりも妻が早く起きているから、その時が来ても僕は起こされる方かもしれない。

 名前はもう考えてある。きらきらネームという言葉を頻繁に聞いた時期もあったけど、考えた名前がそれに当たるのかは分からない。どうせきらきらするのなら、名前ではなく子どもが自身の人生を輝かせられるように育てたい。名前は光るのではなく、光らせると言った方が正しいかもしれない。二度目のトレーニングの後に散歩に出掛けた。風は涼しく身体の荒熱を拭ってくれる。明日のことは明日になれば分かるから、今日は横になって親子で楽しく過ごしている夢を見よう。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

未分類

前の記事

「お兄ちゃんだから?」
未分類

次の記事

風が吹いている