次はない
これ以上はもう腕に力が入らない。もし毎回の動作を腕が動かなくなるくらいまで妥協なくやり遂げたら、どれだけの成果が出るだろう。実際のところ、少し休憩すればまた僕の腕は動いてくれるし、ある程度動作を続けることはできる。集中力が足りていないのか。そんなことはないはずだ。他のどんな時よりも筋肉のことだけ考えて動いているのだから。しかし他のことは何も考えないと思いながらやっている時点で、他のことが少なからず頭によぎっているということになる。
今日は今年一番早起きしたかもしれない。朝から曇っていて、太陽はまだ顔を出していない。雨が降ると天気予報で言ってたから晴れることはなさそうだ。ゆっくり起き上がってタオルケットをどける。白湯をコップに1杯飲むのはしばらく続けている習慣だ。人肌よりも高い温度の液体が、内臓を撫でる感覚が伝わってくる。目覚まし時計の代わりに優しく、でも確実に1日の始まりを身体に知らせてくれる。プロテインを1杯作って飲んだ。
Tシャツを着て外に出る。雨はまだ降っていなかったが、空気は肌に涼しい。20分くらい歩いて帰ってこれるように、適当にいつも歩いている道を進んでいった。駅を通り過ぎ、商店街の緩やかな坂を下っていく。今日は燃えるゴミの日だから、袋がそこかしこに置かれている。時々カラスが突っついたように散らかっているのだけど、今日は鳴き声も聞こえない。昨日の夜、餃子を買う為に僕らの前に並んでいた若者達が、向こうからぞろぞろと坂を上って歩いてくる。きっとどこかで飲み明かしていたんだろう。僕には気付かず、もちろん気付くことはないが、駅の方に向かっていった。
大きな通りに出たところで折り返した。通り沿いを歩いてきた方向に向かってまっすぐ進む。ゴミを回収する青いトラックを幾つも見かけた。眠っている間にも、誰かがそうして快適な生活を守っている。ゴミを捨てるのも人間なら、それを集めているのも人間だ。街が少しでも綺麗になるように、僕らにはできることがまだたくさんある。
駅前まで戻ってきた。最近新たに工事が始まって、長い間立てられていた柵が少しずつ取り払われていた。住み始める前からずっと工事をしていたし、今もそれは続いている。まだ変化の真っ只中という感じだが、最終的にどこかに行き着いて落ち着くこともなさそうだ。家に帰ってシャワーで身体を温める。外を歩いて既に汗を少し掻いていたので、更に汗が止まらなくなった。僕はそのままリュックにペットボトルを詰め込んで、いつものようにヨガマットを敷いて、腕立て伏せを始めた。
100%集中しようと思ったら、集中しようなんて考えないほうがいいかもしれない。集中するんだ、と自分に言い聞かせるのにエネルギーを使ってしまうようでもったいない気がする。余計なことを考えないと言葉で言った時には、もう考えてしまっている。目の前のことだけ、今この瞬間にだけ寄り掛かり続ける。考えることなく、どこにでも行ける。