何もなくとも

 水と空気と食べ物だけあっても、人間はそれだけではきっと生きていけない。雨が降っていないからといって、街をひたすら歩き続けて、腹が減った時だけ食べ物を探すという野生動物のような生活とは程遠い日常に慣れ過ぎてしまっている。しかもそれは昨日今日始まったことではなく、人間は屋根のある家のような場所に安心を求めてきたはずだ。そしてその生活は僕の日常でもある。身の周りに物が少ないことがいいと思うよりは、本当に自分が気に入った物だけに囲まれていられたらと思う。

 僕の住む部屋の床には、薄いピンク色のウレタンマットが敷かれていた。夏はまだいいのだけど、冬になると床がとても冷たかった。暖房を付けていても底冷えするので何とかしたいと思っていた。部屋の半分は濃い茶色のベッドフレームが置いてあって、その上に敷いたマットレスで眠っていた。寝心地が悪いわけではないが、身体を移動する度にフレームが軋む音がして、そのうち割れてしまうんじゃないかと思っていた。

 今日は午前中からずっと動きっぱなしで消耗した。まず床のマットを全て取り替える。壁とほぼ同色の白い大きめのマットを全体に敷き詰めていく。ベッドフレームは来月に粗大ゴミで捨てる為に解体した。壁側にはほこりがかなり溜まっていて、床ごと丁寧に掃除する必要があった。掃除機で吸って水拭きをして乾燥させる。湿気が溜まりやすいのも気になっていたので、サーキュレーターを用意して準備万端だった。

 片付け途中の部屋でパスタを食べて休憩したら、いよいよマットを敷き詰める。今までのマットよりも1枚が大きい。明るめの白で光を反射するのか、全体に敷き詰めると部屋が前より明るくなった。またこれまではベッドフレーム脇のスペースが余っていたが、床全面にマットを置いたことで部屋が広く感じる。ベッドフレームの代わりに購入したすのこを置いてマットレスを戻した。床と身体が近くはなったが、特に支障はない。むしろベッドフレームが置かれていた時よりもスペースが出来て快適そうだ。

 唯一誤算があったとすれば、ベビーベッドが思ったよりもかなり場所を取ってしまったということ。マットレスの横には食事をする小さなテーブルが置いてあるが、そのスペースをかなり圧迫してしまっていた。産まれた後にそこに寝かそうと思っていたが、難しそうだ。僕らが寝ている隣で、子ども用のマットレスを敷いて寝かすのが現実的と言えそうだ。

 ほしいと思って買う。しばらく使う。そのうち使わなくなる。誰かにあげたり、どこかで買い取ってもらったり、ゴミとして捨てる。そうしてまた物を買う。それを繰り返しながら、少しずつ本当に自分にとって価値のある物が何かに気付いていく。豊かな物質的な生活とは、物が多いとか少ないとかではなくて、自分を囲む品物がいかに自分にとって価値があるかを自覚しているかどうかが重要なんだと感じた。

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