準備万端
夕飯は家で塩焼きそばを作ろうと考えていた。スーパーで買い込んだ食材は冷蔵庫の中で虎視淡々とその時を待っている。仕事が終わった後に近所を散歩した帰りにモスバーガーの近くを通り掛かった。何となく見ていたら海老カツバーガーが無性に食べたくなっていた。間食にチョコチップメロンパンを食べていたのに何故か今日はお腹がすくのが早い。メニュー表を見たらどうしても食べたくなってしまって、結局2人で店内に入ってしまった。焼きそばに悪いと思いつつ、持ち帰りで注文して出来上がるのを待った。
今月に入ってから、生まれてくる子どもが退院する時の衣装を手作りしていた。もちろん僕ではなく妻が毎日少しずつ身重の身体で大切に縫ってくれた。僕がしたことと言えばスナップボタンを固定する為にハンドルを力一杯握ったことと、上着のシャツに付けるワッペンを選んだことくらいだ。子どものイニシャルになるアルファベットのワッペンも選んで、アイロンで付けようとしたのだけど温度が低かったらしくうまくいかなかった。小学校の家庭科の授業が嫌いだった僕も、大人になった今は手作業がいい刺激になってささやかな楽しみになってきた。
今週は荷物がたくさん届いたので、ずっと段ボールや包装紙を引きちぎっては細かくしていたような気がする。子ども用品から日用品まで様々な物が届いたし、まだこれからも少し届く。断捨離に次ぐ断捨離で、僕の洋服は必要最低限の物だけになった。すっきりして気持ちがいい。物にはあまり執着がないから、捨てようと思ったら躊躇はほとんどしない。ゴミ出しのコンテナが一杯になってしまうくらい捨てた時もあった。ほぼ毎日家で食事をするので、ゴミが増えてしまっていた。
こんなこともあった。2ヶ月に1回は水道料金を支払っていたが、何故か今月は使用量のお知らせだけがポストに投函されていて払込用紙は入っていなかった。初めてのことだったので水道局に電話して聞いてみると、前回よりも使用量がかなり増えていたらしく請求を一旦止めているとのことだった。増えた理由は、僕が会社に出勤しておらず生活排水が増えたことくらいしか心当たりがない。特に水漏れがあったわけではないので請求書を郵送してもらうように伝えた。気を使ってもらってありがたいと思う反面、請求を止めているのならその旨を連絡してくれるなり、お知らせに書いてくれたらよかったほしいと言って電話を切った。
そんな何でもないような毎日が過ぎていく。その間にも彼はお腹の中で自分の身体を目一杯伸ばしたり縮めたりしているはずだ。身体の大きくなる速度に、妻の身体はもうそろそろ追いつけなくなっているのかもしれない。早く外の世界に出たいと言わんばかりにお腹を押している。手の平を当てると僕にもはっきりわかるくらいだ。父親になる準備はできている。完璧な父親ではないかもしれないけど、きっと君を守れるくらいにはなっている。準備万端で待っている。