ベビーグッズドライブ

 最後に東京の街を車で走ったのは半年以上の前の事だ。普段頻繁に車に乗るわけではないから、頻度が少ないのは特に珍しくない。今日はレンタカーを借りて出産の為の買い出しに出掛けた。妊婦検診の日でもあったので、午前中に病院で診察を受けて、その足で知人からベビーグッズを譲り受け、足りない品を求めてあちこち走った。ペダルを操作する右足がずっと緊張していた。運転が苦手なわけではなく、むしろ好きなくらいだけど久々だったので正直かなり応えた。グッズを見ながらあれこれと想像する時間が楽しいということと、妻と2人で出掛けるのもしばらくお預けだと思うと何とも言えない気持ちになる。

 毎日妻のお腹を蹴飛ばしているらしい我が子も、今日の診察で推定体重が2,000gを越えたとのこと。胎児の様子も特に問題はないという事を妻から聞いてとても安心した。何度も言っているが、健康に育っているということが本当にありがたい。診察が思ったよりもかなり早く終わったので、支払いを済ませ家に戻った。妻の知人が子育て用品をいくつか譲ってくれることになっていたので、簡単に昼食を食べて再度車を走らせて向かった。

 いつもはバスに乗って病院に出掛けていたので、車で余裕を持って移動した今日は妻の体調も良さそうだった。彼女が言うには、子宮が車の振動に合わせて穏やかに揺れているらしい。お腹の中で子どもが車酔いすることはおそらくないのだろうけど、僕の腹の中には揺れるものがないのでそれはどんな感覚なのか不思議に思う。水分を摂りすぎるとお腹の中でちゃぽちゃぽと音がすることがあるけど、もしかしたらそれに近いのかもしれない。

 僕が彼らに会うのは今日が初めてだ。妻の友人夫婦で、既に先輩お父さんとお母さんだ。小さな子どもがいて、家の前に車を付けさせてもらうと全員で迎えてもらった。大きなリボンを付けた小さな女の子と、お母さんに抱っこされた更に小さな女の子が玄関前に立っていた。恥ずかしがっていたのはおそらく僕の方だったかもしれない。買ったお土産を渡し、荷物を運んで礼を言って次の目的地へ足早に出発した。世の中が大変な状況にあっても、東京の街で明るく元気に過ごす家族の姿は、蒸し暑い今日の太陽よりも眩しい。

 世田谷を出発して、吉祥寺までを車で往復した。借りた車はハイブリッドカーだったので燃料のメーターはひとつも減らなかった。荷物を自宅に全て降ろした後に寄ったガソリンスタンドで、気持ちばかりの量のガソリンを入れて今日のベビーグッズドライブは終わる。筋トレをした日でも今日ほどはきっと疲労を感じないだろう。身重の妻に運転はさせまいと気を貼り過ぎたかもしれない。それで疲れたのだとしても全く構わない。子ども用品店で品定めをする彼女は既にきらきらのお母さんだった。不安と喜びが入り混じる不思議な感情を抱えながら、間違いなく素晴らしい体験をもたらしてくれる我が子に会えるのをとても楽しみにしている。その時僕は、君にどんな素晴らしい体験をもたらすことができるだろうか。

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