髪の毛を切る
だいぶ長くなってきた髪の毛を切りに出掛けた。美容院は全くと言っていいほど行かない。安い値段である程度の形になっていれば僕の場合はそれで充分だった。今まで何度も自分以外の誰かに髪を切ってもらったけど、心から満足いく髪型にしてもらったことはない。相手に自分のイメージを伝えるのが難しく感じる。途中で口を出して細かく調整してもらえばいいのだけど、それも何故だか言い出せずに最後まで切ってしまっている。お店を出て窓に映った自分の頭を見て、いつも煮え切らない気持ちになっている。
値段が安いと思って、ある店に入った。紙の番号札を1枚取って自分の番を待つ。店員は1人か2人しかいなかったけど、並んで待っている人も少ないので思っていたよりも早く鏡の前に座るよう案内された。僕は毎回ほぼ同じ言葉で希望する髪型を伝えようとする。きちんと伝わっているかどうかは出来上がりを確認するしかない。仮にイメージと違っても、終わった後ではどうしようもないから任せるしかないのだけど。
まずは全体の長さを短く切り揃えてから軽めにすいてもらう。横髪はいつも耳に軽く掛かるくらいにしてほしいと頼むのと同時に、前髪も短めにしてもらっている。ちょうど横髪の長さを調整する為に、耳の近くにハサミがあった時のことだった。微かな痛みと共にハサミが当たった心地がしたが、気のせいだろうと思った。その後も問題なく作業は進み、僕の髪は軽くなって頭皮に風が通るようになった。その仕上がりに僕は満足したわけではなかったけど、もうどうしようもないと思って家に帰った。
家に帰ってからしばらくして、タオルで汗を拭こうと思った。特別暑いわけではなかったと記憶しているが、季節に関係なく汗を掻くほうなので珍しいことではない。汗を拭いた後の白いタオルに赤い点が出来ていた。一瞬何だろうと思ったが、もしやと思い耳の後ろを触って見ると小さな血の塊りがそこに付いていた。血がどばどば出ていたとかではないし、ハサミで付いた傷なのかは断定出来ないけど、もしかしたら切られたのは髪の毛だけではなかったのかもしれない。
値段の高い安いで技術が変動するわけではないだろう。安い料金でもイメージ通りの髪型になることもあるだろう。間違えて耳を切ってしまったのかどうかはもう今更確認しようがないし、切ってもらった人に文句を言うつもりも全くない。その時に言えばよかったのかもしれないが、今となってはもう過去の話だ。
暑い中、髪の毛を切りに出掛けて結局想っていたのとは違うものになった。もういっそのこと、坊主頭にでもしてしまえば随分涼しくなるのにと考えている。