手作りマスク・試作1
梅雨の前触れだろうか。夕方から雨が降り始めて、そのうちに雷が激しく鳴り出した。僕はユザワヤで買ったガーゼとゴム紐を使って、ミシンで手作りのマスクを作ろうとしている。前回ミシンに触ったのは革の文庫本カバーを作った時以来だ。そのブックカバーは押入れの中に眠ったままだ。使い捨てのマスクは最近色んな店の軒先で販売しているのを目にするようになった。騒動の前に買っていた値段よりもかなり高額だ。値段の高さだけではなくて、いつまでも使い捨ての物を買い続けることに疑問を感じていたので一度作ってみようと思った。
妻が買って使っている黒いミシン。最初は彼女がマスクを作るのをチョコチップメロンパンを食べながらそばで見ていただけだった。作るのが難しいんだろうと思っていたら、案外早く出来上がったから自分でも作れそうだと思った。服を1着縫うことを思えば遥かに簡単な作業だろうと。ミシンの上糸と下糸は既にセットされているし、ミシンの操作も問題ない。座ったままの体勢なので、ペダルを踏む足を折りたたむ必要があって窮屈なことを除けば何も問題はない。
小学校の家庭科の時間を思い出す。僕はミシンを使う授業が嫌いだった。ミシンの糸がしょっちゅう絡まるし、先生の説明がよく理解できなかったから。分からないのなら聞けばいいだけのだが、僕は皆の前で質問することにいちいち躊躇していて、その間に授業はどんどん進んでいった。結局目標としていた段階まで作業を進めることができずに暗い気持ちになっていた。先生の教え方が悪かったなんて思わない。普段ミシンを触る機会にばらつきのある子ども達全員に同じ物を一斉に作らせるのが悪いとは言わない。僕が色々と不器用だっただけだ。
僕が作るマスクは、先に作った妻のマスクよりも少し大きめのサイズになるように型紙を切るところから始める。生地の柔らかいガーゼを縫いやすくする為に接着芯をアイロンで貼り付けた。そんな材料があることを知らなかったので、それを知れただけでも僕にとっては大きな収穫だ。型紙に沿って切り取ったガーゼを縫っていく。緩やかに生地がカーブしているので、ミシンの速度を膝を曲げた足で調節する。ミシンの癖なのか、あるところまで踏んだら急に動き出すのでちょっと手強い。慣れないと余計なところまで縫い進んでしまいそうだ。
思ったよりも時間が掛かったがマスクは無事に完成した。白いガーゼに、手作りと分かるように淡い黄色の糸を使って縫い上げた。ペダルを踏めばミシンが自動的に生地を動かしてくれるが、まっすぐに縫うのは案外難しい。まっすぐにしようと生地に触ると方向が微妙に変わる。縫い始めに落とす針の位置も結構重要だと思った。出来上がったマスクは僕の顔面にぴったりフィットとはいかなかったので、改良の余地はまだありそうだ。とにかく、苦手だと思っていたことができるようになるのはいつだって気持ちがいい。