「よだかの星」
鳥達から蔑まれ恐れられた1羽のよだかは、空高く舞い上がって星になろうとした。宮沢賢治の童話集に収められた「よだかの星」。僕が購入した童話集は文庫本サイズで持ち運びしやすく、童話なのであっと言う間に読み終えてしまう。童話とは言っても子どもっぽいという感じはない。むしろ大人でも読めて意味深な内容になっている。「よだかの星」の最後の数文が特に気に入っている。
高校の担任の先生は国語を教えていた。当時の僕は文章を読むのがあまり好きではなかったから、授業はあまり真剣に聞いていなかったと思う。特に国語のテストで、主人公の気持ちがどうだったとかが問題になっていると、それこそ正解なんて人の数だけあるだろうと思っていた。そんな僕らにも、先生は我慢強く日本語の文章の魅力を伝えようとしていた。「よだかの星」は特に先生のお気に入りだったらしく、熱を込めて話をしていた記憶がある。
よだかは鷹と名前が付いてはいるけど、その見た目はお世辞にも褒められたものではなく、鷹と聞いて震え上がる他の鳥からも忌み嫌われている。彼自身は自分で選んでこの見た目で生まれてきたのではないのにと疑問に思っていた。そしてよだかは、本物の鷹からも名前も変えるように迫られるのだった。代わりになる別の名前まで提案され、受け入れなければ殺してしまうとまで言われた。なぜ鷹と名前に入っているだけで不当とも言える扱いを受けるのか。実は鷹とは別の鳥類であり、美しいと言われるかわせみや蜂鳥の仲間だったのだ。
空を飛びながら、よだかはくちばしを開けている。小さな虫が次から次へとその中に飛び込んで餌になっていく。彼はその瞬間、身体の中で小さな命が次々と消えていくことを想う。自分自身も鷹に殺されるかもしれないというこの時に、小さな虫達の命を自分が奪い続けていると。
意を決したよだかは夜明けと共に空に向かって飛び立つ。自分のように誰からも好かれず、見た目がひどいと揶揄されても、最後に命が燃え尽きる時には光を放つと信じて。昼の太陽からの助言に従って、彼は夜空のあちこちに輝く星に向かってお願いをしていく。冷静になれと言われたり、星になるには身分や金が必要だと言われて足蹴にされる。とても疲れ果ててしまって、いよいよ力尽きて地面に落ちるかと思われたその時、最後の気力を振り絞るように空に向かって再度鋭く舞い上がった。
もう本当に力を出し切ってしまったよだかは、目を覚ますと自分が空で明るく輝く星になっていることに気付いた。その星は静かに燃えていたし今もずっと燃え続けている、と物語は結ばれる。彼が最後に飛び上がった時に鳴いた声は森の鳥達を心底震え上がらせた。まるで彼の命そのものがありったけの力を込めて叫んでいるように。言われのない蔑みへの怒りにも似た苦悶と、生きたいという切なる願いが入り混じった彼の気持ちが溢れ出たようだった。
ぼろぼろになって血まで付いてしまった口ばしで微かに笑ったよだか。今夜も星になって夜の森を優しく照らし続けている。