咲く時も、散る時も
東京都、目黒区、駒場公園。小田急線もしくは京王井の頭線の駅から徒歩で10分程度。整った住宅街の中でその公園はひっそりと、でも確かな存在感を放っている。下北沢からだと東北沢駅と井の頭線線路のちょうど中間くらいの方角か。とても暖かい日だった。最近までTシャツの下にヒートテックを着ていた僕もさすがに暑かった。桜の花が舞い散っている。ケツメイシのあの歌が聞こえてきそうな春の陽気。花は散ってもう来年まで咲かないのに、もう次の春を想っている。
運動不足になりがちなこの頃。東京大学のキャンパスと、研究施設が近い駒場公園は実は目黒区。公園の正面には立派な門があってとても落ち着いた雰囲気を醸し出している。木陰の多い園内に入ると砂利道が続く。足を踏み入れることはできないが、沿道の柵の向こう側には古い洋館がいくつも残されている。明治頃の建物なのだろうか。当時の貴族達が暮らしていた様子が想像できる。
さらに公園内を進んでいくと、広い芝生のあるエリアに出た。ベンチがいくつか置かれ、家族連れもいた。公園の近くのコンビニで買ったおにぎりとサンドイッチをお茶と一緒に食べる。コンビニのおにぎりは普段全然食べないけど、こんな気持ちのいい日なら美味しく感じる。サンドイッチは卵サンドだ。芝生の広場は木々の間から太陽がよく顔を覗かせる。もっと暑くなってきたら座り続けるのはしんどそうだけど、今はまだ木漏れ日が気持ちいい。
園内には桜がほどよく植えられている。密集しているわけでもなく、あちこちに点在しているわけでもない。ベンチの近くには周りより数十センチくらい地面が盛り上がっている円形の場所がある。そこには幹と枝が細く周りと比べても背の低い木がいくつか植っていた。鮮やかな緑色の小さな葉っぱを付けている。風が吹くたびに頭上の桜の花びらが散って、その若葉を付けた木の間を静かにひらひらと舞い落ちていく。空中に浮かぶ花びらが風で向きを変える度に光を反射して雪のように見えた。
お腹を満たして再び歩き出した。芝生をぐるっと一周するように歩く。大きな洋館がそこにも建っていた。どうやら重要文化財らしい。旧前田家本邸と呼ばれるそれは、旧加賀藩当主によって建てられたとのこと。洋館以外にも、海外からの客をもてなす為に和風の邸宅も側に建てられている。洋館の裏手に回ると前田家の車庫として利用されていた当時の面影を残す洒落たトイレが設置されていて、さらにその奥には日本近代文学館もある。残念ながらいずれの施設も休館中ではあったが、外から見るだけでもとても興味深いものだった。
桜を見ながらふと考えた。日本では四季折々様々な植物が、訪れる人達を魅了している。数ある花の中でも、咲いている時も散っている時も心を捉える花はめずらしいんじゃないか。花を付けてから、最後散っていくその時まで桜はずっと僕を魅了している。