ハンドルは自分で切る
ミッドシップのスーパーカーに乗りたい。運転席の後ろが少し盛り上がって後輪に向かって絞られる。横から見た厚みは、乗用車と比べてかなり薄い。平べったいのだけどメリハリがある。ランボルギーニよりもフェラーリ派だ。筋骨隆々というのではない。見た目の優雅さに隠された想像以上のパフォーマンス。エンジンをかけた途端にその魅力はもう隠し切れない。ドライバーの鼓動は高まっていく。自動運転もいいけど、僕は自分でハンドルを切り続けたい。
自分の車は持っていない。実際に車を運転する機会と言えば、レンタカーを借りて運転するぐらい。大体いつもハイブリッドのコンパクトカーを借りる。トヨタのアクアがほぼ定番車種だ。レンタルする時は毎回200〜300kmくらいは走っているけど、燃費がとてもよく助かっている。ハイブリッドカーなので車の加速もストレスなく気持ちいい。どこまでも速くとはいかないまでも運転好きの僕もあまり退屈せずに乗っていられる。
実家にいた時にはもう少し大きな車も何台か乗った。旧型のホンダのオデッセイ。家族みんなを乗せられたのはよかったけど、運転免許を取ってからあまり時間が経っていなかったので、駐車する時に車の後方をぶつけてしまったことがあった。言うまでもなく安全運転が一番だ。
紫のトヨタのハリアーにも乗ったこともある。こちらはSUVで見た目も大きいが、乗り込むと更に車体の大きさを感じる。ボンネットが張り出していて前方が見づらく距離感が掴みにくい。運転に自信がないわけではないが、やはり慎重にならざるをえない。高級SUVの先駆けとも言われる車種だけに、乗り心地はとても快適だ。立派な巨体をゆっくり流しながら走るのが気持ちいい車だった。現在はトヨタとレクサスの両方から後継車種としてそれぞれ販売されている。特にレクサスではRXという車名になっており、気になる1台でもある。
あまりよくない思い出もある。睡眠不足のまま身内の車を借りて出掛けたことがあった。旧型のクラウンだった。ハリアー以上に乗り心地がよく、運転がとても楽だった。エンジンの排気量からくる余裕のパワーをしなやかな足回りがいなし路面からの衝撃もストレスにならない。意気揚々と出掛けた帰りに寝不足が原因だったのか、一瞬うとうとしてしまった。前を走る車にぶつけてしまいとんでもないことをしたと冷や汗がでた。結局、車の修理の為に僕が当時乗っていたスポーツバイクを売却して補填することにした。
車の運転だけではない。身体が健康でなければ集中して何かに取り組むことはできない。楽しいはずの出来事を目一杯楽しめない。幸せを思いっきり噛み締められない。大丈夫だ、と言いながら気を緩めない。機械が僕の代わりにいつかハンドルを操作する日がきっと来るだろう。交通事故も減る。いいことだと思う。車に乗った結果、誰も悲しい思いをしなくて済むかもしれない。でもそうなったら、車に乗る喜びはあるだろうか。
空気を裂くような激しい排気音で疾走するスーパーカー。緊張感と興奮を両輪に乗せて、ドライバーは今日もハンドルを握り締めている。