キャベツ畑の満天の星、草津へ道半ば

 夜のキャベツ畑。街灯のない道を車で走る。山の空気は冷たくて心地いい。漆黒の空は、輝く星をより明るく見せる。ヘッドライトの灯りを頼りに車はまだ走り続けている。夜の静けさを渡って、次の街まで。一番星は見つけられたか。僕が目指す星はまだ輝きを失っていないだろうか。目を逸らさずに、いつまでも追いかけ続ける。

 群馬の草津温泉に向かう途中、辺り一面のキャベツ畑に出くわした。去年のお盆に、長野県で家族が集まって花火を見た後の次の日だった。花火を見た夜は一泊して、翌日は川の近くのレストランで昼食を食べた。昼食までの時間は、透き通った冷たい川に入って涼んだ。長野と言えど、雲が少ない8月は直射日光で暑い。清流は僕の身体の荒熱を奪い去って、同時に足りないものを補ってくれる。

 昼食を食べて、家族とはしばしのお別れ。また次の機会に、と言ってそれぞれ帰路に着いた。僕は妻と一緒に草津温泉に向けて出発。前日に東京から長野へ3時間ほど移動していたので、疲労が完全に抜けていたわけではない。草津へは急ぎでもないので、運転を交代しながらゆっくりマイペースで走った。それでもやはり温泉好きな僕は、はやる気持ちを抑え切れなかった。

 小さい頃から、風呂が好きだったらしい。実家の風呂に追い焚きの機能が付いた時は、入る順番はほとんど最後だった。最後に入れば、誰にも気兼ねなくゆっくり浸かれるし、追い焚きを使ってちょうどいい温度を保てる。たまに入浴剤を入れて気分転換した。湯船に浸かって気持ちよく歌っていると、先に寝た家族から「もうちょっと静かにして」と注意されることもあった。

 草津温泉は、町の中心に湧き出す源泉が湯煙を上げる湯畑がある。湯畑を囲む柵には過去草津を訪れた、時の人達の名が刻まれている。足湯も数カ所あり、源泉から湧き出たお湯が流れる湯滝もある。夜にはライトアップされるので、幻想的な雰囲気が一層高まる。

 東京の温泉は、ほとんどの場合入場券を買って入る。草津には、入場券のいらない大衆浴場がいくつもある。初めて草津に来た時に湯畑の近くの大衆浴場に入った。季節は真冬の12月で外はとても寒かった。脱衣場の窓がなぜか開いていて、外からの風が身体に応える。さぞかし温まれるだろうと湯船に浸かると、予想以上に熱かった。熱くて一気に浸かれない。湯船のそばには、「冷却用」と油性ペンで書かれた水色の大きなポリバケツが置いてあった。何に使うんだろうと思っていたら、地元の人らしきおじさんが、他のお客さんに説明していた。お湯をバケツにすくって冷ました後に、再度湯船に戻して温度調整をするそうだ。

 僕はバケツは使わず、今までにないくらいゆっくり時間をかけて湯船に肩まで浸かった。その浴場には更に温度が高い湯船がもうひとつあって、タオルを頭に乗せたおじいさんが「今日は45度以上あるなぁ〜」と言いながら浸かっていた。僕がいくら風呂が好きだからってそんな熱いところは、さすがに入れそうにない。

 熱い風呂に入って温まるを通り越した僕の身体は、いつまでも汗が止まらなかった。季節が夏ならちょうどよかったんだろうなと思う。湯畑の賑やかさも好きだが、虫の鳴き声しか聞こえないキャベツ畑で、満天の星空を見上げよう。やがてやってくる明日の足音に耳を澄ませて。

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