頬張り過ぎる
小腹が空いた時にはバナナを食べることが多い。僕は熟して黄色くなっている物よりも、少しだけ緑がかっている方が好きだ。甘過ぎるのは好みではない。黄色いバナナは買った時には痛んでいなくても、買ってきて数日で痛み出す物が多いように思う。その点、黄緑色のバナナは痛むまでの時間が比較的長い。まとめて購入しても、しばらく自宅で色が変わるまで置いておくこともできる。でもいつも余分にストックしているわけではないから、色に関わらずすぐに食べることが多い。黄色くなっていないバナナは少し青臭いが、控え目な甘さが特徴的だ。そして時々は見た目だけではなくて、中身自体も美味しく食べられる状態になっていないこともある。ただ青臭いだけの中身だ。
購入する場所によっても熟し具合が結構変わる。下北沢にいくつかスーパーマーケットはあるが、各店舗に全く同じ商品が並んでいるわけではない。同じブランドのバナナが並んでいることもあるが、僕が普段買っているのは100円前後の物だ。一房をいくつかに切り分けられているであろう大きさだ。本数にして3〜5本くらいだ。林檎などと比べても高くはない値段だろう。それを毎回2〜3袋まとめて買っている。朝食と昼の3時頃、そしてなぜか風呂上がりに小腹が空いて食べる時も多い。腹持ちはあまり良いとは言えないが、食べてすぐにエネルギーになる気がする。頭がぼーっとして何か甘い物を口にしたい時には、ジュースを飲むよりもバナナの方が手っ取り早いし、口の中に嫌な甘さが残らないので重宝している。
バナナを家で食べているのは僕だけではない。妻はもちろん普段から食べているが、息子も最近皮を剥いたそれに齧り付くようになった。離乳食で使う食材も、以前はペースト状にしていたのが今は数ミリの大きさで食べられるようになっている。ヨーグルトに他の果物と一緒にバナナを潰して加えていたけど、それも今はある程度形が残る状態で食べさせている。目立って嫌いな食品は今のところなさそうだ。物によっては気乗りしないのか食べる勢いが落ちることもあるが、ヨーグルトはいつだって自分から欲しがってくる。僕がバナナを手に取って皮を剥いているだけでこちらに近付いてくる。声を上げて興奮しているようだ。ヨーグルトに入っている物と同じ食べ物だと分かっているのかもしれない。大人が思う以上に子どもは色々と観察しているらしい。
僕の膝の上に息子が手を置いた。そのまま身を乗り出して口を開けている。手に持っているバナナが欲しいということで間違いない。まだ一口も齧っていないそれの先端を、息子の口の中に少しだけ入れる。息子は下の歯が2本既に生えていて、上の歯茎と一緒にそれらを使って噛んでいる。大きく開けた口でバナナを咥えたと思ったら、更に顔を前に出してくる。入り切らないほど咥えようとするので少し引いて噛ませた。食いしん坊なのかもしれない。バナナとは別でその後すぐに離乳食をいつも通り食べることは珍しくない。そう言えば息子はこれまでお腹が一杯になったと仕草や表情で現したことがなかった。妻が離乳食の参考にしている書籍に書かれている量よりも少ないからなのか。ただご飯の量を増やしてもお腹一杯で苦しそうにすることはなくて、用意した分のご飯はほぼ全て完食している。体重も増え過ぎていないし、むしろ運動量が増えたせいか下半身は引き締まっている。頼もしい限りだ。
昔はバナナを一房まるごと買うことは珍しいことではなかった。今ほど大きなスーパーが地元にあったわけではないけど、小さいなりに品揃えは決して悪くなかった。家族の人数が多かった我が家では、一房あってもすぐに食べ終わってしまう。たくさんあれば長く持ちそうな気がするが、不思議とたくさんあればあるほど、皆が好きな食材は早く無くなってしまう物かもしれない。今は一房そのまま売り場に置いてあることは稀になっている。下北沢に初めて来た頃には、まだ駅前に小さな八百屋のような店があって、野菜や果物を販売していた。綺麗に舗装されたアスファルトを見慣れてしまったせいか、元々そこに何があったのかを思い出せなくなっている。それでも僕は薄く黄緑のグラデーションが掛かったバナナを今日も買いに出かけていく。