濃い緑が欲しい

 子どもに読み聞かせる為の本が随分増えた。日本語で書かれている物だけではなくて、洋書も数冊置いてある。小学校の国語の教科書に出てくるお馴染みの物語を、原作の英語と日本語訳を両方掲載している物や、おそらく中規模くらいまでの書店には置いてなさそうな動物の鳴き声のする絵本もある。でも最近は読み聞かせよりも自分の身体を動かすのに夢中らしく、本を読む頻度は少し減った。それでも息子はお気に入りの本が数冊あって、それらを読んでいる時にはページに描かれた絵をじっと眺めている。前述した動物の鳴き声がボタンを押すと小さなスピーカーから聞こえる本も好きらしい。色々な動物の声が次々と聞こえてくるという設定で、ページを捲る度にリアルな鳴き声が発せられる。

 その英語の本の中には、他の動物に混じって大きな蛇が登場することになっている。僕は爬虫類が好きではないが、イラストで描かれた蛇なら何とも思わない。子ども向けなので現実の生き物のような不気味さもない。緑を基調として、身体の所々に明るい色の模様が見える。日本にはいなさそうな蛇だ。実家の風呂の浴槽に備わっていたプラスチックのカバーを父が外しているのを横で見ていた時に、外したカバーの向こう側でじっとこちらを睨んでいる青みがかった蛇を見たことがある。しかし絵本の蛇は、それよりももっとカラフルな身体の配色だった。でもイラストだから毒々しさは全くない。子ども向けの本だし、現実の蛇に似せる必要はないだろう。あまり現実の蛇に近いと、僕自身がページに触ることを億劫に思ってしまうかもしれない。

 ネットショッピングで注文した後に、届いた商品を梱包していた段ボールを使うことにした。何に使おうと思ったかというと、絵本に登場する蛇を段ボールで作ってみようと考えた。段ボール箱を解体して蛇の長い胴体になりそうな部位を探した。くねくねと蛇行させながら紙を綺麗に切れる自信はなかったので、真っ直ぐ長めに切った後に自分で折り目を付けて蛇らしい動きができるようにした。学校の先生に作る物を指定されて作業をするのは好きではなかったけど、自分が好きで思い立ったことは時間を忘れて取り組める。学校の授業は自分以外にも同級生が何人もいるし、僕だけいつまでも作品作りに時間を取ることはできなかった。その当時に比べれば、大人になった今は時間の使い方が遥かに自由になっている。

 切り出した長い段ボールの片側を、横から見た蛇の頭の形に切る。そして反対側は緩やかに尻窄みになるようにはさみを入れた。鉛筆を1本取り出して、下書きとして目を描いた。今度は胴体に縦の薄い線を等間隔で先端まで引き続ける。それができたら今度は先程描いた線と垂直になるように、胴体と平行になる横線を引いた。これで蛇の胴体上には鉛筆で描いた四角が並ぶことになる。蛇の鱗を描くことは最初から決めていたけど、できるだけ形や大きさ、そして間隔を揃えたいと思った。描き終わった後で消しゴムで簡単に消せるように下書きを行ったのだ。両面合わせて下書きだけで1時間弱使うことになったが、そのまま次の作業に移った。黒の細めの油性ペンを使って、予め引いておいた鉛筆の線を目印に鱗を1つずつ描いた。緩やかな山形の曲線を描くことになるけど、山の頂点を中心として左右対称になるように丁寧にペンを走らせた。

 鱗を両面描き終えた後は色を塗る工程に進む。絵本の蛇のように身体は緑色にしようと思っていたけど、緑一色では面白くないと思った。自宅に黒の油性ペンはあったが、緑色のペンがなかったので急遽買いに出かけることにした。時々通っている下北沢の三省堂書店の文房具売り場で何色かがセットになった物を購入し、蛍光色に近い明るい黄緑のペンを探しに別の店に出かけ、目当ての商品を見つけたのでこちらも購入した。早速家に帰って鱗に色を付けてみる。鱗の内側を緑一色でしばらく塗り進んでいたけど、黄緑も使ってグラデーションを付けることにした。なので途中からは鱗の内側を黄緑でなぞって、更にその内側を濃い緑で塗ることに決めた。胴体を斜めに走る黄緑色の帯のような模様も付け加える。

 色を塗っている僕の様子をすぐ横で息子が見ていた。机の上に置かれた油性ペンのセットが気になるようだ。僕はそれの蓋を開けて床に置いて、彼が自分でそこから取り出せるようにした。すると案の定、息子はそれらを1本あるいは数本まとめて何回かに分けて全て引き抜いていた。そしてかちかちとペン同士をぶつけて遊んでいる。その段ボールの蛇の身体は、まだ緑と黄緑には染まり切っていなかった。

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