この音が気に入っているから
前の日に吉祥寺の家電量販店に出かけて、イヤホンの交換用のケーブルを頼んでいた。早ければ当日中か、遅くても翌日午前には入荷するとのことだったので、2日連続で吉祥寺行きの急行電車に乗った。iPhoneにそのSONY製のイヤホンを繋いで、カラオケアプリで歌っていると右側のケーブルが緩くてすぐに外れてしまう。接続も不安定で、スマホのマイクが拾っているはずの自分の声がはっきりと聞こえない症状もあった。ケーブルと本体の接続部分を指で押さえながら使っていたけど、この先ずっとそれを続けるのは億劫だ。プレゼントでもらった物で、音質も気に入っているからまだまだ使い続けたいと思っていた。
前日の午前中、SONYの窓口に電話で問い合わせをしてみた。受付開始時刻直後だったからか、すぐに男性のオペレーターと話すことができた。イヤホンの機種名を伝えて症状を説明した。購入当時の箱や書類一式は既に処分してしまっていて、おそらく保証期間も過ぎてしまっていることも伝える。すると原因をこの場ですぐに断定することはできないと言われた。預からせてもらってイヤホン本体側に原因があった場合、厳密には修理ではなく新しい同一機種と交換という対応になるとのことだった。そして無償ではなく、新品の金額の7割程度の金額の支払いが必要になるとの説明だった。提示された金額は20,000円を超えていて、じゃあ修理をお願いしますと即答はできなかった。
どうしようか考え込んでいるとオペレーターから、一度家電量販店の修理受付窓口で原因が分かるかどうかも含めて相談するのはどうかと提案された。イヤホン本体ではなくてケーブルに問題があるのなら、10,000円程度でケーブルだけ新しく購入するという選択肢もあると。新品で買うと30,000円以上するし、交換修理でも20,000円を超える値段だ。オペレーターの男性に礼を言って電話を切った。やはり一度店舗で相談すべきだと思い、電車に乗って吉祥寺に向かったというわけだ。オーディオコーナーにエスカレーターで向かい、店員に声をかけた。前述の症状を伝えて、原因を特定する為に店頭にあるケーブルを差し込んでもいいか聞いてみることにした。
展示用の物は接着剤でケーブルと本体を固定してあるので難しいとのことだった。ただデザインは違うが僕のイヤホンに対応したケーブルがあって、それで良ければ試してみますかと提案された。店員が持って来てくれた物は、確かに元々のケーブルとは太さや形が少し違っている。最初の1本はあまりいい感触ではなかったが、2本目に試したケーブルはしっかりと本体に繋がって簡単には抜けないようになったので一安心だ。値段を確認すると10,000円と少しだった。在庫があればそのまま購入して帰ろうかと思っていたが、その日はあいにく店になかったので翌日に再度来店することにして下北沢に帰った。ケーブルにも個体差があるかもしれないと説明され、もしかしたら店に届いたケーブルが緩い可能性も否定できないとのことだった。そこで購入する前に試させてもらって、緩いなら買わないという無理なお願いも聞き入れてもらった。
翌日の朝に店で渡された注文書に書かれた番号で入荷状況を確認すると、既に入荷済みとスマホに表示されていた。再び電車に乗り込む為に駅のホームで待っていると、昨日の店員から入荷済みの連絡がありこれから向かう旨を伝えた。昨日と同じくらいの時間に到着して、入荷したケーブルを試させてもらった。昨日うまく繋がったケーブルと同じ感触だったので購入した。自宅から持ってきた袋に商品の箱を入れて、店員に礼を言って店を後にした。何だか気持ちが良かった。SONYの窓口のオペレーターからは具体的な提案をしてもらったし、店舗の店員にも無理を言って対応してもらった。もし入荷したケーブルが思ったような物ではなくても、その時はこちらで何とかしますと言ってくれたことよりも、使い続けたいと思っている僕の気持ちを汲み取ってもらえたようで嬉しかった。もちろん今回のような対応が毎回約束されているわけではないし、別の店に行けば全く違う対応になるかもしれない。でもありがたいと素直に思えた心の有りようは、いつまでも覚えておきたいと思う。