せっかくのお風呂が
僕の仕事は毎日大抵、夕方の5時から6時の間に終わる。いわゆるフレックス制が導入されていて、始業時間も少しだけ融通が効くようになっている。今のところは5時ぴったりに仕事を終わらせないといけない理由が特にないので、毎日仕事を始める時間は規定の中で前後する。すっきりと朝目覚めることができれば、その日は多少早めに仕事を始められるし、終わりの時間が早まることで夕方の家事が忙しい時間を多少は余裕を持って過ごすことが可能になる。当日2回目の離乳食を息子に食べさせた後におもちゃと絵本を片付ける。そして風呂場に行って浴槽を洗って、自分達が寝る為の布団を敷くのが毎日の日課だ。便秘気味だった息子も最近はとても快調そうで、離乳食を食べている途中で毎日おむつを変えているほどだ。
僕が赤ん坊の頃の事を父が話すと、必ずと言っていいほど出てくる話がある。僕のおむつを外した瞬間におしっこが父の顔に向かって勢いよくかかることがあったそうだ。父は当時から眼鏡をかけていたから、それがびしょ濡れになったはずだ。それ以外の顔面にも飛んだかもしれない。僕自身はまだ今のところ息子のおしっこを直接顔に浴びたことはない。おむつを変えている途中でおしっこをしている場面に遭遇したのも数えるほどだ。でも顔の近くまで飛んで来たことも今のところはまだない。でも何か手が濡れたなと思った時にはおしっこをしている。本人は至って機嫌がいい。大人だって用を足したら気持ちがいいのだから、0歳だって同じ心境なんだと思う。
息子と一緒にお風呂に入っていた時のこと。僕が息子と入る時には妻が風呂場まで連れて来てくれて、入り終わった後も妻が連れて行くことになっている。湯船に浸かってから数分が経ってそろそろ出ようかと思っていたら、息子のお尻の間から勢いよく何かが噴射したように見えた。初めてのことだったけど、とにかくシャワーで息子の身体を流そうと思ったが1人ではできそうになかった。なので普段より少しだけ大きな声で妻の名前を呼んだつもりだった。結果的には少し大きいどころか、その声で息子を驚かせてしまったようだ。息子自身も自分の身に起こったことに困惑していたところ、父親が急に大きな声を出したからなのか泣き出してしまった。呼ばれた妻も何かあったのかと急いで風呂場まで駆け付けてくれた。
浴槽に足を入れたまま僕は息子の両脇を抱えて立ち上がり、妻にシャワーで息子の身体を洗ってもらった。綺麗になったところでいつものようにバスタオルで妻に息子を横抱きしてもらって、僕がタオルで身体を拭いていく。軽くはなくなってしまった息子の体重を支え続けるのは簡単ではないので、手早く済ませなければならない。おまけに息子は首を反らせて辺りを見渡している。身長も伸びているので腕だけでは身体が収まりきっていない。髪の毛を重点的に拭いたら、後の着替えは妻に任せた。浴槽の底のゴム栓を外して残り湯を流す。いつもよりも念入りにお湯で身体を流しながら浴槽を出た。風呂の途中でそんなことがあったのは僕も息子も初めてだ。僕はいつものように落ち着き払っていればいいのに、突然のことでなぜか興奮してしまったのかもしれない。きっと風呂がよっぽど気持ち良かったんだなと思いながら、泣かせてしまったことを反省した。
薄暗くした部屋の壁側で息子がもがいていた。着替える時も中々じっとしていない。足を通している途中で寝返りをしたり、服を掴んでいるこちらの腕を蹴ったりしてくる。元気が良いのは何よりだけど、せめて服を来てから暴れてくれたらと思う。横になってじっとしていることしか出来なかった時期を過ぎて、自分で色々できるようになっているから落ち着かないのかもしれない。今までできなかったことが、突然できるようになって興奮することが僕には最近あっただろうか。大人になったらそういった機会は少なくなるのかもしれない。でも大人になったからと言ってできないことが無くなるわけではない。知らない物事は自分から知ろうとしなければいつまで経っても理解できない。そんな当たり前のような事を、泣き続ける息子の様子を見ながら考えていた。