食べるに慣れる途中
身長が伸びているか、もしくは体重が増えているかどうかは自分で確認できる。身長を家で測ることはできるし、体重も同様に計測することが可能だ。でも生まれてまだ1年も経たない息子の身体の中でどんな変化が起こっているのかを、直接見ることはできない。34年間付き合っている僕自身の身体の内側の変化も、未だにはっきりと手に取るようには理解できていない。仰向けに寝かせてもすぐに寝返って、別の場所へ移動しようとする。這って動くことはまだできないけど、身体を捻ったり曲げたり、寝返る時の方向を変えたりしながら器用に移動している。むちむちだった下半身も、太腿が少し引き締まって腰も以前より細くなった。寝返りをしない期間が長いなと思っていたら、ある日突然寝返る。そして一度できるようになるとそればかりを繰り返す。何度も転がって、周りの景色をじっと眺めている。
生まれた病院を妻よりも数日後に退院してからは、特に大きな問題はなく育っている。ミルクも母乳もよく飲んでくれるし、排泄も毎日行っていた。親と同じ時間帯に眠ることはできないけど、一晩中泣きっぱなしでいることはない。何をしても泣き止まないこともあると聞いていたけど、今のところは心配なさそうだ。出産後の一番睡眠のリズムが安定しない時期には、心配ないなんて言う余裕はほぼなかったけど、今思えば随分夜中も寝させてくれたなと思っている。泣いても泣かなくても自分の子どもだから、例え一晩寝られなくてもという気概ではいたが、実際にもし一晩中寝ないとなったら、僕は寝落ちせずに耐えられただろうか。1時間寝ないだけでも、最初はストレスになってトイレに篭ったりしていた。全く大人気ないと自分でも思う。
母乳を飲んでもらいながら、離乳食も去年から始めている。大人ならそのまま飲み込んでしまえるような、どろどろになった食材をシリコンのスプーンで口元まで運ぶ。最初の一口は眉間に皺を寄せながら、不本意ながら食べてみるかと言いたげな表情を浮かべていた。気に入ったであろう食材には、前のめりになりながら口を大きく開けて近付き、運ばれて来るのを待っている。1食で食べる量は思いのほか少ない。僕らが食べる料理で余った食材を使うにしても、まだ多い。調理済みの離乳食を買うことはできるけど、自分達で極力用意したいと思う。今の月齢で家庭の味と言っても覚えてくれるかどうかは分からないが、手作りにこだわることで息子に思いが伝わる気がしている。食材を準備する時間が少しもない毎日ではないし、作り置きしておけば毎日調理する必要もないから、他の家事に全く手が付けられないわけではない。
離乳食を始めてから、それまで毎日あった排便の間隔が空くようになっていた。最初は2日に1回だったのが、3日に1回に減り、最終的には1週間全く出なくなった。でも僕の心配とは裏腹に、息子本人は特に普段と違う様子を見せなかった。便秘になるとお腹が張るというが、柔らかいままで苦しそうにもしていなかった。母乳の飲みも変わらないし、離乳食も食べが悪いわけではなかった。何もなければそれで問題ないのだから、一度病院で診察してもらうことにした。医師も特に便秘の典型的な症状は見られないと言ったが、しばらく出ていないのであれば浣腸して溜まった物を出そうということになった。簡易ベッドのシートの上に息子を仰向けで寝かせる。看護師が薬剤を注入した後、しばらく息子の様子を伺っていた。彼は泣きもせずに、見慣れない病院の部屋のあちこちを見回していた。
それから数分経った時に、息子が顔をしかめているのが分かった。踏ん張っているのだと思う。自宅では見たことのない表情だった。自分で気付いていないだけで、僕も同じような表情になっているのかもしれない。身体をこわばらせている。おならの音も聞こえる。おむつを慎重に外すと案の定大量に出ていた。綺麗にした後に再度診察室で医師に診察してもらった。離乳食を始めたことで便秘になるのは一つの典型的なタイミングだそうだ。液体である母乳に加え、細かくなってはいても固形物を取り入れることになるから、排泄に影響するのは珍しいことではないらしい。薬を処方してもらって様子を見ることにして自宅に戻った。ネットで調べることは簡単だけど、皆が全く同じことを書いているわけではない。情報に触れ過ぎて迷いや不安が拭えないのなら、やはり素人判断はせず、医師に診てもらうべきだと改めて思う。