将来のこと

 僕は国道を西に向かって大型バイクで走っていた。例え暑い夏の日だったとしても、肌に直接風が当たる面積を小さくしなければ体力を奪われる。急に呼び出されたと自分では思っていたけど、何となくこんな日が来るのではないかということも同時に予感していた。その時に跨っていたのは、余計なことを考えていられるほど安全な乗り物ではないから、ただひたすら流れてくる景色を前から後ろに送り続けていた。速度を上げるに連れて着ている上着が暴れ出す。それでもバイクの車体だけは、微動だにせず僕を目的地まで運んで行った。

 高速道路だと料金の支払いが発生するが、その道は自動車専用の無料で通行できる道だった。全長は100kmに満たない。慣れれば途中で休憩しなくても走り切れるくらいだ。但し有料の高速道路の間を補うようになっていて、輸送用のトラックが多い。片側2車線しかないから、大きなトラックの横を通過する時に結構身体が振られる。車のハンドルを握っていればそこまで体感することはないかもしれないが、バイクならもろに風の影響を受けるので油断できない。結果的に途中で休憩しながら走ることになる。

 通常の高速道路と同じようにサービスエリアやパーキングエリアが何箇所もある。ちょうど区間の中間地点にあるサービスエリアで待ち合わせることになっていた。よくあるサービスエリアと同じように、飲食店や土産物屋が数店舗入っていて、小腹を満たす為の軽食を摘みながら休憩を取ることもできるようになっている。観光バス用の駐車場があって、時期によっては学生の団体を乗せているであろう車両が何台も連なっている光景を目にすることもある。バイクを日陰に停めて、愛車のエンジンから立ち昇る熱気が空気を歪めているのを静かに眺めていた。

 その日はもう先に僕が到着していた。いい予感はしていなかった。できればこのまま誰も現れなかったという理由で、すぐにでも家に引き返したかった。しかし同時に、それがどんな内容の話であれ自分にはきっと受け入れることしかできないであろうことも分かっていた。どれだけ言葉を尽くしても僕に変えられることはもう何もないと。そして見覚えのある車が駐車場に入ってくる。ヘッドライトが眩しい振りをして目を細めていた。ヘルメットを引っ掛けて施錠したら、助手席に乗り込む。僕はただ相手の言葉を待っていた。ただ息苦しいとしか思えない時間が流れていく。僕が覚えているのは「将来のことを考えて」という言葉だけだった。

 返す言葉は何もなかった。当時の僕はその言葉を覆す術を何も持っていなかったし、そもそも覆す気概すらなかったんだと思う。考え方の違い。よくある話だ。特別なことでも何でもない。僕には選択肢などないような状況だったから、不思議と帰り道に後味の悪い思いを抱えることはなかった。自分に対して将来性を感じないということを遠回しに言われたんだろう。でも僕自身ですら、自分の将来がどうなるかなんて分からなかった。それよりもただその時は全身で向かってくる風を受けながら、いつ明けるとも知れない夜の闇の中をいつまでも駆け抜けていたかった。

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