運命の一冊は、変わり続ける

 1冊の本が僕の人生を変える。そんなことは、ない。正確に言うなら、運命とでもいうべき1冊の本が何であるかは、常に変わり続ける。本を読む年齢や環境で、知りたいことや解決したいことは違うからだ。生きていく為の黄金律が書かれた本がどこかにあると信じていた。純粋に物語に没頭できて、そこから何か糧になるような教訓を得られる小説。そんな小説がどこかにあると思っていた。誰もが通う大きな書店かもしれないし、素通りしてしまいそうな小さな書店かもしれない

 学生の頃は、自己啓発書にはまった。お金を稼ぐ方法や、よりよい人格を獲得することにこそ生きる意味があると思っていた。大体の自己啓発書は小説ほど分厚くないので、読み終わるのにあまり時間がかからない。だから一度読んで気になったら、読み返すのも比較的楽だ。読み返すほどに、本に書かれた要点が心に染み込む気がしていた。

 漫画はコミックブックというぐらいだから、本の一種だ。自己啓発書にはまった後は、漫画にはまった。漫画全般ではなくて、板垣恵介の刃牙シリーズと、井上雄彦のバガボンドだ。大学生の時に筋トレにのめり込み始めて、身体の仕組みや動きに興味をもった。作中の主人公達の身体能力が高いのはいうまでもないが、その描き方が美しいと思った。機能的な美しさ。肉体の造形的な美しさ。自分もそれを獲得できるかもしれないと、漫画を読みながら空想に耽っていた。

 卒業して会社で働き始める。子ども達に水泳を教える仕事だったので、的確に伝える為にどう自分の身体を使って見せればいいか、またどのような言い方をすればいいかを工夫するのに本を活用したいと思った。水泳の教本から、子どもへの指導方法や子どもの行動の特徴を解説する本まで何冊か手に取った。子どもを対象にしていても、実は大人相手にも通じるような考え方もあっておもしろかった。相手に伝えるという点で言うと、ある意味子どもの前でのパフォーマンスともとれる。なので演劇の本も少し読んだ。

 今現在はというと、東京に住んで当時とは全く違う業種の会社で働いている。今の状況には全く満足していない。給料を頂いて生活できているし、世間の事情を考慮して在宅勤務も許可されている。本当にありがたい配慮だと思う。ただその生活は、僕が一番望む形になっているわけではない。ブログを始めたのも、会社に雇われるという今までの形から脱却する為の第一歩と捉えている。

 冒頭で、運命の1冊は変わる続けると言った。読む本の趣向も、その時々で変化する。変化しつつ、僕が今までの読書で得た知識や考え方は確実に積み重なっている。だから自己啓発、漫画、教育、演劇の要素が自分の中に存在し混ざり合う。ひとつずつ顔を出すこともあるし、あるときはいっぺんに出てきてぐちゃぐちゃになる。そして時々、パッとそれらが繋がって新しい気付きが得られる。

 今日も本屋に出掛けた。色々見て回りながら、今書いたことを考えていた。結局本は買わずに夕飯の買い物をして家に帰った。一番知りたい答えは、いつだって自分で見つけるしかない。でも目の前のその1冊が、それを見つける助けになるかもしれない。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です